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ピロリ菌とスキルス胃癌[炉辺閑話]

No.4941 (2019年01月05日発行) P.55

上村直実 (国立国際医療研究センター国府台病院名誉院長)

登録日: 2019-01-04

最終更新日: 2018-12-27

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私は1979(昭和54)年に広島大学を卒業し、アラバマ大学への留学後、1989(平成元)年から呉共済病院に13年間勤務しました。その後、2002(平成14)年から新宿の国立国際医療センターにお世話になりました。そして、同センターが独立行政法人となり、名称も国立国際医療研究センター(NCGM)となった2010(平成22)年から、千葉県市川市にあるNCGM国府台病院の病院長として勤務し、2018(平成30)年3月に定年退職いたしました。この40年間、消化器内科の臨床医として患者さんに対して最善と思われる医療を提供することを目標として励む一方、「わからないものを知りたい!」という好奇心を満足するための趣味として、「ピロリ菌の感染と胃癌に関する臨床研究」を続けてきました。

私たちがピロリ菌と胃癌の関連について「ピロリ菌除菌により胃癌を抑制することが可能」と米国で報告したのが22年前で、「ピロリ菌に感染していない人に胃癌が発症することはきわめて稀である」と報告したのが18年前でした。さらに最近、判明してきたのがピロリ菌感染とスキルス胃癌の関係です。22歳のEXILEメンバーや41歳の格闘家が胃癌で亡くなった新聞記事をみて、1993(平成5)年に40歳代で亡くなったテレビのアナウンサーと、31歳でやはりスキルス胃癌で亡くなった弟さんのことを思い出し、彼らは「遺伝性のスキルス胃癌で亡くなったのかもしれない」と推測しました。

アンジェリーナ・ジョリーの、乳房切除術で有名になったのが遺伝性乳癌ですが、欧米では遺伝性の胃癌も結構よく知られた病気です。ピロリ菌感染の有無とスキルス胃癌のタマゴである印環細胞癌の関係を調査した結果、ピロリ菌感染があるとスキルス胃癌に進行するが、ピロリ菌感染がなく炎症のない胃に印環細胞癌が発生しても進行することは稀であることがわかってきました。ピロリ菌の除菌による胃癌の抑制効果は完全ではないのですが、中学生くらいでピロリ菌を除菌しておくと、スキルス胃癌に進行するのを防ぐことが可能かもしれない、と期待されます。まだまだ「知りたい」という好奇心から趣味の臨床研究を続けたいと思っています。

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