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昭和・平成、心臓血管外科一筋そしてその後[炉辺閑話]

No.4941 (2019年01月05日発行) P.60

天野 篤 (順天堂大学医学部附属病院病院長)

登録日: 2019-01-04

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1955(昭和30)年に生まれ、少し苦労したが1983(昭和58)年に医師免許も取得できた。昭和晩期の研修医として得がたい経験を沢山身につけたことで、平成を心臓血管外科医として一途一心に駆け抜けられたと思う。この間、循環器領域ではカテーテル治療の普及により心筋梗塞の死亡例は激減し、急性期ステント治療や冠動脈バイパス手術、さらには動脈硬化予防の特効薬であるスタチンにより、罹患後も高いQOLが維持できるようになった。

一時期は右肩上がりに心臓血管外科における冠動脈バイパス術の割合は多かったが、平成の後期になると病気の一次予防や生活習慣の見直しなどの効果、さらには再狭窄をきたしにくい薬物溶出性ステントの度重なる開発により冠動脈バイパス手術が激減した。しかし、代わりに成人心臓手術の主体は、さらなる高齢化により大動脈弁狭窄症の手術に置き換わる気配を見せたが、それもつかの間で、循環器内科医はカテーテルによる弁置換術を開発して、外科医が手をこまぬいていた高リスク症例を、たやすく社会復帰させるようになった。

これまで外科手術の進歩は、手術時間の短縮と低侵襲化をめざして早期回復を得る努力をしてきたが、高額の医療器材を投入することで、たやすくその壁を乗り越える治療体系ができて、外科の領分を明け渡さざるをえなくなってきた。手術技術で患者さんを助けるのではなく、よくできた治療機器で助けられるのだ。また、その後の早期回復も見せつけられると認めざるをえない。現時点で新たな領域の手術対象は、急増する心房細動関連疾患と心不全疾患くらいしか見当たらず、心臓血管外科医の行く末に黄信号が灯るこの頃である。

しかし、目をアジアに向けてみると、新興国ではGDPの伸びは著しいものの社会環境や公衆衛生は追いつかず、日本が経験した以上のスピードで生活習慣病を拡大している。当然医療の進歩も不十分で、以前経験したような手術症例が山ほど待ち受けている。日本を訪れるアジア人は急増するが、日本で治療を受けられる富裕層ばかりではない。今こそ経験の多い外科医達はアジアに出向いて、自らの若い時代に培った技術と経験を今一度展開する時期であると思う。

医療支援による外交援助も、お世話になった昭和と平成に感謝する気持ちの表れなのだろう。小さな国際親善を積み上げる準備は整った。

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