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高齢交通社会と医療[炉辺閑話]

No.4941 (2019年01月05日発行) P.67

一杉正仁 (滋賀医科大学社会医学講座(法医学)教授)

登録日: 2019-01-04

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わが国では高齢化が進行しつつあり、2017年には65歳以上の人口が27.7%を占める。それに伴って交通社会にも多くの高齢者が参加しているが、交通事故死者の54.7%は65歳以上である。特に歩行者に限れば72.2%に、自転車乗員では67.9%にのぼる。したがって、高齢交通外傷患者の診療が主となり、その救命と重症度軽減が課題となっている。

一方、高齢になると死亡事故を起こす割合も増加し、全死亡事故の12.9%は75歳以上の高齢者の運転であった。現在、75歳以上の高齢者に対する認知機能検査によって運転免許取得・更新の可否が判断されている。しかし、認知機能だけでなく、安全に自動車を運転できる能力があるかを医学的に判断することが求められる。筆者らの検討によると、すべての自動車事故の約1割は、運転者の体調変化に起因する。高齢者では多くの疾患や症状を有するため、そのコントロールを良好に保つことと、運転能力の適切な判断が求められる。

さて、わが国の人口の60.0%が生産年齢人口であるが、その割合は徐々に低下している。わが国では諸外国の中でも生産年齢人口の低下率が著しく、2015~30年に12%減少すると予想されている。もはや日本の社会や経済を維持する上では、生産年齢人口だけに頼ることはできず、高齢者の社会参加が求められる。2018年の敬老の日の発表によると、65歳以上の就業者数は770万人と過去最高であった。特に運送業従事者の高齢化はほかの産業より著しく、タクシー運転者の平均年齢は59歳である。わが国では、高齢運転者に頼らざるをえない状況であり、したがって、安全に自動車を運転できる能力を維持することも求められる。

筆者は、脳卒中になった人が交通社会に復帰できるような支援を行っている。安全に自動車を運転できる能力がある高齢者は、積極的に交通社会に参加してQOLを高めて頂きたい。もちろん、就業して頂くことはわが国への大きな貢献である。

交通社会参加者に対して医療が果たす役割は大きい。安全な高齢交通社会を維持するカギを握っているのは医療従事者であろう。

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