87歳,女性。既往歴として2003年,右変形性股関節症で人工関節置換術。普段は元気で,飲酒もしません。9月末頃から少し咳嗽があり,10月2日夜,10時頃,悪寒戦慄。10月3日深夜に来院。
来院時,体温37.2℃,血圧140/70mmHg,心拍数102/分(洞調律),SpO2 95%。胸部不快感を訴えたため,心電図を撮ったところST下降(?)。アセトアミノフェン(カロナール®)を処方し,帰宅してもらいました。10月5日午後6時45分,悪寒戦慄が続くため,再び受診。咳,鼻汁,下痢,咽頭痛,腹痛なし。10月6日,症状は落ち着き,36.1℃と解熱。検査結果は表1の通り。腹部超音波所見では肝S8に2.0cm大の囊胞があり,囊胞内に6mm大の石灰化がある以外は胆囊に異常所見はなく,胆管の拡張や胆石は認められませんでした。
本症例は,悪寒戦慄,発熱,CRP値,白血球数,肝機能異常から,急性胆囊炎や胆管炎が鑑別診断に挙げられると思いますが(腹痛はなし),超音波ではそれを積極的に示唆する所見がありません。感染症が最も考えられますが,抗菌薬の投与もなしに自然軽快しています。診断として何を考えればよいでしょうか。
(秋田県 F)
【一過性に胆管炎が発症し,自然軽快した可能性がある】
本症例では一過性の発熱を認め,血液検査で肝胆道系酵素の上昇および白血球数,CRPの上昇がみられています。軽度の腎機能障害も併発しており,ご指摘の通り胆管炎による変化が推察されます。自然軽快していることや発熱が軽度であることから,passed stoneのような形で一過性に胆管炎が発生し,自然軽快した可能性を考えます。高齢者では自覚症状が乏しいケースもあり,腹痛の訴えがなかったのではないかと思われますが,悪寒戦慄や軽度の発熱もあり,やはり炎症による病態が第一に考えられます。
腹部超音波検査で胆石等の描出もありませんが,胆泥のような微小結石などが乳頭部に陥頓し,一過性に胆管炎を発症したのちに内圧の上昇に伴って結石が自然排石されるケースも認めます。原因を特定することが困難な症例ではありますが,少なくとも血液検査結果では胆管炎の存在が示唆されるため,その原因として上記のような病態が最も考慮されるのではないでしょうか。原因検索として磁気共鳴胆道膵管撮影(magnetic resonance cholangiopancreatography:MRCP)なども考慮されますが,MRCPでは5mm以下の微小な胆管結石は診断能が不良であったとの報告1)もあり,超音波内視鏡(endoscopic ultrasonography:EUS)などでの検索も必要になる可能性があります。
【文献】
1) Jendresen MB, et al:Eur J Surg. 2002;168(12): 690-4.
【回答者】
岩﨑 将 東邦大学医療センター大森病院 消化器センター内科
五十嵐良典 東邦大学医療センター大森病院 消化器センター内科教授