前回(No.4944)は、居眠りが大きな事故につながることをお話ししました。
わが国では、一般運転者の4~8%が居眠り運転をしていると言われています。様々な調査によると、居眠り運転事故の発生率は1%未満ですから、居眠りや傾眠状態でも幸運なことに事故に至らなかった例があると考えられます。一方で、年間10万km以上を走行する長距離トラックの運転手を対象にした調査では、25~36%で居眠り運転の経験があり、11%が居眠り運転事故を起こしていたことがあるそうです。同様に、事故に至らなかった例はあるものの、走行頻度から考えると事故の危険性は高いと言えるのです。
したがって、居眠り運転の予防対策が喫緊の課題となります。わが国では事業用トラック事故の47%が追突事故です。居眠りによる追突事故を予防するために、国土交通省では「トラック追突事故防止マニュアル」を作成するなどして、運転者の健康管理の徹底や先進安全自動車導入の推進などを掲げています。運送業に従事している方の健康管理を担当されている先生には、一層のご尽力をお願いすることになります。
さて、居眠りを含めた睡眠関連事故の予後について考えます。一般的な事故で運転者が死亡する頻度が5.6%であるのに対し、睡眠に関連した事故における運転者の死亡頻度は11.4%でした。このように、睡眠関連事故の方が高い死亡率を示す背景には、いくつかの理由があります。
第一に、意識状態が低下していると筋緊張が低下することです。意識が清明であれば、衝突直前に四肢に力が入り、ハンドルやダッシュボードといった車室内構造物への衝突を回避することができます。
第二に、運転中の居眠りによってハンドルなどに覆い被さる、あるいは前のめりになってうとうとするという前傾姿勢になると、それ自体が危険なのです。乗員保護装置であるシートベルトは正規着座姿勢では鎖骨中央、胸骨中央、左右上前腸骨棘を固定することで身体を拘束します。しかし、前傾姿勢になると、肩ベルトが鎖骨ではなく上にずれて頸部に接触することになります。もしこの状態で衝突事故が起きたらどうなるか。車両のシートベルトには、プリテンショナー機構が搭載されており、衝突後、数ミリ秒でシートベルトが巻き上げられて、乗員の拘束をより確実にします。したがって、頸部にシートベルトが接触していると、頸部に大きな外力が作用することになります。
著者らは、衝突試験用ダミーを用いて頸部にシートベルトが作用した際の危険性について衝突試験を行いました。これによると、時速29kmの前面衝突に遭遇すると頸部には12.8Mpa以上の外力が作用していました。また、前傾姿勢では、ハンドルに上半身が接近するので、衝突時にはエアバッグの直撃を受けます。エアバッグは前面衝突時にシートベルトの乗員拘束作用を補助するものであるので、正規着座姿勢においてのみ安全性が確保されます。前傾状態では、時速300kmで展開するエアバックが頭顔部に直撃するため、これ自体が致命的損傷となりうるのです。したがって、居眠りによる姿勢変化だけでも危険な状態なのです。
居眠り運転は事故原因となるだけではなく、事故時にもさらに重症の損傷を負うということをお記憶くださいませ。