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私たちの手で被虐待児を救う[先生、ご存知ですか(15)]

No.4951 (2019年03月16日発行) P.66

一杉正仁 (滋賀医科大学社会医学講座教授)

登録日: 2019-03-15

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虐待を受けていた子が命を落とすという悲惨な報道を目にします。児童相談所が虐待の事実を把握していながらなぜ救えなかったのか。その対応には憤りさえ感じます。

私は滋賀県で被虐待児の診察や受傷機転の鑑定などを行っています。虐待した親は当然のことながら、「自分が殴りました、蹴りました」などとは言いません。気づいたら倒れていた、自分で転んだ、などと虚偽の申告をします。しかし、児童を診ることで真実を見極めることができます。私たち医師の力で、何とか子供を守らなくてはなりません。

さて、近年こそ児童虐待が注目されてきましたが、戦後間もない1947年に制定された児童福祉法の中では既に「要保護児童発見者の通告義務」が規定されていました。しかし、児童虐待について国民一般の認識が低かったこと、しつけと虐待を見分けることが困難である、あるいは、他人の家庭のプライバシーを侵害することになるなどの理由で、被虐待児の早期発見には十分機能していませんでした。

そこで、2000年11月に「児童虐待の防止等に関する法律」が制定され、国民が積極的に虐待防止に取り組むことが期待されました。この中で、通告はすべての国民の義務であるとしたうえで、その通告においては守秘義務の規定に反しないことを明確にし、疑い例でも躊躇することなく通告できるような法的整備を行いました。さらに、医師や保健師には、その専門的立場から虐待の早期発見が社会的責務として課せられました。そこで、被虐待児早期発見のための重要なポイントを挙げます。

1)受傷機転の不自然さを見抜く

保護者は虐待であることを隠そうとするあまり、曖昧な受傷機転を説明することがあります。現実的にはあり得ないような事故を主張する、あるいは、説明内容が二転三転する際には、積極的に虐待を疑うべきです。

2)外表の損傷がないことで身体的虐待を否定してはならない

虐待行為の多くは人の手や足といった、作用面の滑らかな鈍体による打撲、圧迫作用であるため、外表に明らかな損傷を伴わないことが多いです。したがって、外表に明らかな変化がなくても陳旧な骨折などの内部損傷を見出す検査が必要です。

3)特徴的所見を見出す

問いかけに対して無表情で反応に乏しい、些細なことにも怯えるような表情をする、凍りついた凝視をする、年齢に比して成長が遅れている(低体重、低身長)、などの所見があれば、虐待を疑うことが重要です。

4)診察室の外でも親子の関係をチェックする

虐待の事実を見抜かれないように、保護者は病院の診察室内で良好な関係を装おうとすることがあります。診察室の中だけでなく、受付、待合室、検査室などでも、親子関係に気を配ることが重要です。医療機関のスタッフと連携して、よく観察することが重要です。

細かい観察を行った結果、虐待が疑われたとします。その時、保護者の意見をただすことや、保護者を責めることは控えるべきです。これは、保護者が児を連れて帰ってしまうことや、さらに虐待を助長することにもなります(逆ギレすることもあります)。また、虐待を行う保護者も不遇な育ち方をしたか、精神疾患や育児不安などから自分をコントロールできない場合があります。まず、通告することが重要です。

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