No.4951 (2019年03月16日発行) P.67
仲野 徹 (大阪大学病理学教授)
登録日: 2019-03-13
最終更新日: 2019-03-12
入試の面接では、興味のあった時事問題について尋ねることもある。何人かの受験生は、女子に対する不利な医学部入試判定を挙げた。そりゃそうだろう。身近な時事問題で最大のものだったに違いない。
厚労省の「女性医師キャリア支援モデル普及推進事業」についてのホームページを見ると、けっこういろいろなことがわかる。
過去20年の間、医学部入学者の女性比率は約3分の1で横ばい。昭和55年の比率は15%と、思っていたより高い。現在の女性医師比率は約20%で、OECD諸国中、韓国とならんでぶっちぎりの低さである。
診療科別で見ると、皮膚科、眼科、麻酔科、小児科、産婦人科の女性医師比率が30%を超えていて、逆に、外科、泌尿器科、脳神経外科、整形外科が10%以下と低い。それから、女性医師の出産と子育てによる仕事の中断がそれぞれ7割と4割ある。このあたりが、女子受験生に対して不利な入試判定がおこなわれた理由だろう。
しかし、入試判定の操作により、女子医学生、ひいては女性医師の比率を下げようとするのは論外だ。遠からぬ将来、約30%が女性医師になるのだから、それに向けて制度設計をするのが筋というものだ。
とはいうものの、ホンネとしては、できれば入試で何とかと思っている大学関係者も多いような気がする。
阪大医学部は関西圏からの入学者が圧倒的に多い。ある時、関東や東北からの学生はユニークで面白い子が多いように思いますけどとつぶやいたら、「そういった学生は、卒業したら地元に帰ることが多いから、あまり望ましくない」と返事されて腰が抜けそうになったことがある。
たとえホンネがそうであっても、口が裂けてもそんなこというたらあかんでしょう。はるばる遠くから来てくれた学生に失礼だし、あまりに偏狭すぎる。もう少し大きなフレームワークで物事をとらえないとお話にならない。そのためには、性別や地域、その他もろもろの多様性が必要だ。
教授の女性比率があがり、自校出身者比率が下がり、外国籍の教授も多数着任。学生の年齢やバックグラウンドもさまざま。医学部だけでなく、日本中の大学がいろいろな多様性で満たされる。そんな日がいずれやってきてほしいと願ってはいるんですけど、ちょっと無理ですかねぇ。
なかののつぶやき
「つい最近まで『男女共同参画』というのが、“gender equality”の和訳であるということを知りませんでした。ちょっとニュアンスがちがって、なんとなくごまかされてるような気がしますけど、そんなことないですかね。
大学でも女性教員比率の向上が言われ続けてますが、なかなか思うに任せないところがあります。根本的な考え方を変えないと、いつまでたっても、掛け声だけになってしまいそうに思うんですけどねぇ」