医療保険のオンライン資格確認の導入を支援する基金の創設や、社会保険診療報酬支払基金の組織改革などを柱とする健康保険法等の改正法が5月15日の参議院本会議で、与党などの賛成により可決、成立した。多岐にわたる改正内容から医療現場に特に関わりが深い項目を取り上げ、国会審議中の政府答弁も踏まえて概観する。
改正法の主な内容と施行時期は表の通り。
オンライン資格確認は、医療機関の窓口で患者のマイナンバーカードまたは健康保険証の情報を読み取り、資格の有効性を即時照会する仕組み。政府は21年3月頃から導入を開始したい考え。失効保険証で受診した場合などに生じる過誤請求は、医療機関と保険者の事務負担を増やす要因となっていたが、大幅な減少が期待される。なお、医療機関に対して導入が義務化されるわけではない。
医療機関がオンライン資格確認に対応するには、カード読取機の購入やシステム改修が必要となる。新たに創設される「医療情報化支援基金」は、オンライン資格確認あるいは標準規格の電子カルテの導入費用を補助するもの。医療機関からの交付申請先は、支払基金になる見通し。
基金の財源として19年度予算に300億円が計上されており、150億円がオンライン資格確認導入の支援に充てられる。法案審議で厚生労働省は「システム改修費は病院で約300万円、診療所・薬局で約50万円と見積もっており、その2分の1を補助する」「導入が進むにつれ、改修費の単価が下がると考えられる。少しでも多くの医療機関に補助を行えるようにしたい」などと説明している。
オンライン資格確認導入が始まってもマイナンバーカードと保険証が一体化されるわけではなく、引き続き保険証でも受診できる。当面はオンライン資格確認対応の医療機関(マイナンバーカードのみで受診可能)と非対応の医療機関(保険証が必要)が混在する状況が続くため、患者に対する説明や掲示などが必要になるだろう。
支払基金改革は、政府の規制改革推進会議が、都道府県支部の存在がレセプト審査の「地方ルール」を生んでいるなどと指摘したことに端を発したもの。今回の法改正では、社会保険診療報酬支払基金法における都道府県支部の必置規定を廃止し、支部長の権限を本部に集約することで、組織統制を強める(21年4月施行)。レセプト審査を行う各支部の審査委員会は本部の下に設置される形となる。ただし、医療現場との「顔の見える関係」を維持し、地域医療の特性や医療行為の個別性に配慮した審査が行えるよう、設置場所はこれまで同様、47都道府県とする。
支払基金では業務効率化の一環で、コンピュータチェックで完結するレセプトの割合を順次高めている。コンピュータチェックで完結するレセプトが増えれば、審査手数料が下がったり、本部による統一的基準によって支部間の不合理な差異が解消していくことが期待されるが、現場の医師の裁量権が狭まることも懸念される。この点については、法案審議でも指摘が出たが、根本匠厚労相は「今回の改正は審査基準の平準化を図るもので、医師の裁量権を制限するものではない」と明言している。
外国人労働者の受入れ拡大に備え、今回の法改正では、健康保険の被扶養者認定において「国内居住」が要件に導入された。20年4月以降、日本の公的医療保険に加入する外国人(技能実習生や新在留資格「特定技能1号」該当者など)の家族は、日本に生活基盤がない限り給付を受けられなくなる。これは日本人であっても、国内に生活拠点がなければ同様の扱いとなる。いわゆる医療滞在ビザで国内に居住する者も被扶養者から除外される。
一方で、国内居住要件には、省令で一定の例外が設けられる。厚労省によると、日本に住民票を残している留学生、海外赴任に同行する家族などは、被保険者との生計維持関係などがあれば、国籍を問わず被扶養者と認める。
このほか、20年10月から、医療保険のナショナルレセプトデータベースと介護保険総合データベースの連結解析が可能となり、研究機関等によるデータの利活用が進められる。また、市町村を主体として高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施を推進する方針も明確化された。
表 主な改正内容と施行時期 | |
医療情報化支援基金の創設 | 2019年10月 |
健康保険の被扶養者を国内居住者に限定 | 2020年4月 |
高齢者の保健事業と介護予防について市町村による一体的実施を促進 | 2020年4月 |
医療保険と介護保険のレセプトデータベースの連結解析と第三者提供を可能に | 2020年10月 |
支払基金の都道府県支部の廃止 | 2021年4月 |