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高野長英(14)[連載小説「群星光芒」178]

No.4765 (2015年08月22日発行) P.64

篠田達明

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-02-14

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  • 「じつはおぬしも八丈島へ流されるところだった……」

    「ええっ」

    内田弥太郎はあやうく声を失いかけたが身を奮いたたせて訊いた。

    「なにゆえ手前は罪を免れたのですか」

    納得できかねる弥太郎の視線を川路聖謨はおだやかな表情で受けとめ、

    「阿部正弘侯は以前、長英殿より和算家の内田弥太郎は将来国の御用に欠かせぬ人物であるときかされた。内田は天文・曆算の手練であり、江川太郎左衛門に洋式砲術を伝授された国防の俊才であるとな。ならば彼の和算の才を活かし経理の面から幕政再生の一端を担わせようと正弘侯はお考えになった。侯はおぬしのような有用な人物を罪人にするのは忍びなかったのだ」

    「そのようなありがたい思し召しとは露知らず、ご無礼を申しあげました」

    その場に手をついて深く頭をさげた弥太郎だが、喉の奥では声にならぬつぶやきをあげた。

    ――許してくれ、信四郎。おまえはおれの身代わりになって島送りにされたのだ。

    目の奥がつんとして、いまにも涙の玉が両目からこぼれ落ちそうになったが、ぐっとこらえた。

    そんな弥太郎の内心には気づかぬごとく川路は細い顎の下を指先でさすって言葉をついだ。

    「島津斉彬侯は宇和島に滞在中の長英殿にオランダの兵術書を訳すよう頼んだ。長英殿も『三兵答古知幾(タクチーキ)』、『兵制全書』、『蘭文兵書』と矢継ぎ早に翻訳をなしとげ、侯の期待に応えた。長英殿が各地を逃亡している間、斉彬侯は腹心の者にひそかに行方を追わせ、潜伏先をすべてご存知だった。同志の大名にも長英殿の足取りを逐一伝えておられた」

    弥太郎にとって驚くべき真相だった。

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