最初に,本書の編著者である河合 隆教授は,日本消化器内視鏡学会理事および日本ヘリコバクター学会副理事長として全国的にも有名な消化器内視鏡の研究者です。さらには消化管それぞれの機能や疾病の病態に精通されていることから,項目ごとに適切な方々を執筆者として配置していることに感心させられます。
さて,ピロリ菌による感染動態は,現在感染している「現感染」,過去に感染していたが現在は陰性となっている「既感染」,および生来感染がない状態の「未感染」の3つに大別されます。この3種の胃粘膜は,それぞれに大きな特徴を有していると同時に,発症する胃がんにも特徴を有しています。
本書を拝読したところ,3つの感染動態に関する疫学と胃粘膜の内視鏡的特徴,さらにそこに発症しうる胃がんのリスクに関する内視鏡的所見について,消化器内視鏡の初学者であっても理解しやすいように代表的な画像を含めてていねいに解説されています。
本書では,日本ヘリコバクター学会を中心に最近のトピックとして注目されている,非ピロリ菌感染による胃炎に対する「胃炎の京都分類」を用いた内視鏡診断について,ピロリ菌感染胃炎との違いを含めて詳細に説明されています。さらに,除菌後胃がんと非ピロリ菌との関連についても,新たな胃内細菌叢の役割が末尾のコラムで取り上げられています。ピロリ菌除菌後に発症する胃がんについて,胃酸分泌抑制薬により除菌後胃がんのリスクが増加する可能性に関して,除菌後の胃内細菌叢に着目して除菌後胃がんの発生機序を解明しようとする,まったく新しい試みが紹介されているのです。ピロリ菌除菌後に投与する胃酸分泌抑制薬により,胃内細菌叢の組成が変化することが除菌後胃がんの発生に深く関連している,という新たな仮説は注目に値するものであると思います。
最近の学会では,ピロリ菌感染胃炎とは別に自己免疫性胃炎(autoimmune gastritis:AIG)も注目されていますが,本書の最後にAIGの診断基準と内視鏡所見,および組織学的所見がていねいかつ簡潔に記述されており,AIGとピロリ菌感染との関連性や,AIGに合併する胃がんの特徴についてもわかりやすく記述されています。
以上のように,本書は消化器診療に携わる若手医師のみでなく,ベテラン医師にとっても必携の書であると思われます。