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【書評】jmedmook92『ケースで身につく 蛋白尿・血尿の診かた・考えかた』要領よく,短時間で腎臓臨床を疑似体験できる一冊

No.5258 (2025年02月01日発行) P.68

脇野 修 (徳島大学大学院医歯薬学研究部腎臓内科学教授)

登録日: 2025-01-29

最終更新日: 2025-01-28

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臨床は経験から得られ,自身の経験から帰納的に診断,治療を計画することが多い。そして経験する症例(成功体験や失敗経験)が多いほど正診率が向上し,有病率の低い疾患の診断の可能性が高くなる。すなわち,経験した症例数が差になる職業となる。本書を読み終わった後の感想は,「これほど要領よく,短時間で腎臓臨床を疑似経験できる本はない」であった。

腎臓病診療における検尿評価は,電解質異常と並んで大きな「1丁目1番地」である。ここから腎臓病診療のminimal requirementを要領よく,かつ頭に入るようにまとめている。また近年,CKDの病診連携が叫ばれる中で,一般医家にあまり馴染みがない腎臓病診療の紹介が重視されており,本書はうってつけであると思われる。尿潜血陽性の患者で「繰り返し行った尿沈渣で3回陰性が確認できれば異常なしと考える」や「高血圧があれば腎硬化症,糖尿病があれば糖尿病関連腎臓病,と原疾患を安易に決めつけていませんでしょうか」など,キーフレーズが満載である。

ただ,近年注目されるAI診断時代がもし腎臓内科分野に訪れれば,この本が掲げるような論理的な思考はもはや腎臓内科医には必要がなくなる。医師のする仕事は研究scienceでもなく,臨床診断artでもなくなれば,治療への専念managementとなる。しかしながら,この本に書かれているような論理的な思考を訓練していなければ,その過程に齟齬が生じた場合はもうお手上げで,「エビデンスがないのでわかりません」となるかもしれない。AI診断の時代になったときこそ,機械ではできない(本書でもしばしば出てくる)人間の“想起”や“気づき”が必須なのであろう。こうした項目がたくさん記載されている。

また,「トピック」では基礎医学,一般医,専門医向けの内容を広く俯瞰した記述でまとまっており,それだけでも一読の価値があると思う。「ポドサイトだけは増殖のプログラミングを与えられておらず,細胞死や剝離によって失ってしまっても,代わりのポドサイトで埋められることはありません」などは学生にもわかりやすい。そして本書の大きなもう1つの特徴は,「わが国でも高度肥満症に対してセマグルチド(ウゴービ®)が2024年2月に販売開始されました」など,随所に最新の薬や基礎医学的な記載が盛り込まれていることである。

一般臨床医から腎臓専門医まで,ぜひとも“一気読み”して頂き,所どころ “心に刺さった気づき”を自身のメモに書き抜いて活用してみたらいかがだろうか。ぜひご一読を。

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