【精神疾患と神経炎症に柴胡剤が選択肢となりうる可能性】
現在,うつ病など精神疾患の病態の一部に,炎症が関係しているという報告が多くなされるようになった。東洋医学では,もともと感染症に用いてきた処方には,そのまま精神症状にも用いられているものがあり,その代表が小柴胡湯である。現在,保険診療で用いることのできる漢方薬のほとんどは約2000年前に書かれたとされる当時の「感染症マニュアル」にあたる「傷寒論」を原典としている。小柴胡湯は「傷寒論」に記載されており,感染症の中期(発症5,6日)に往来寒熱(発熱と悪寒を繰り返す),食欲不振,胸脇苦満(季肋部の脹満感または圧痛)などの主症状に用いられてきた。
一方で,構成生薬である柴胡を含む組み合わせは,わが国では柴胡剤と呼ばれ,精神症状に頻用されてきた。柴胡は感染症に対する解熱,抗炎症といった作用を有する以外に,鎮痛,鎮静といった向精神薬的作用を有する。向精神薬的な作用を発揮する複数の柴胡剤は,この小柴胡湯の生薬構成を基にマイナーチェンジしたものである。たとえば,柴胡桂枝湯,柴胡桂枝乾姜湯などがあり,小柴胡湯よりも薬効が弱く,間質性肺炎の副作用のイメージが強い小柴胡湯よりも使用しやすい。
生薬の場合,複数の有効成分を含有しているために,精神症状,感染症の双方に有効であることはありうることである。しかし,炎症という切り口により,その機序が整理されていくことにより,漢方薬の適応症がより明確になると考えられる。
【参考】
▶ Raison CL, et al:Trends Immunol. 2006;27(1): 24-31.
【解説】
田中耕一郎 東邦大学医療センター大森病院東洋医学科 准教授