(群馬県 Y)
【AMPCが第一選択,AMPC/CVA,経口セフェム系抗菌薬の安易な使用は控える】
『ネルソン小児感染症治療ガイド』原書第22版1)ではAMPC 50~75mg/kg/日・1日1~3回,10日間,『The Red Book 2016』2),『サンフォード感染症治療ガイド2017』3)ではAMPC 50mg/kg/日・1日1回,10日間とされています。
再感染・反復するような症例の場合には,口腔内常在菌である黄色ブドウ球菌やモラクセラ・カタラーリスなどの産生するβラクタマーゼ(ペニシリナーゼ)により,ペニシリン系抗菌薬であるPCGやAMPCが分解されて抗菌活性が低下する4)ことが要因の1つとされるため,AMPC/CVA(クラバモックス®小児用配合ドライシロップ)を選択することを考慮しますが,その投与日数に関しては様々な報告があり,明確になっていないようです。この薬剤はスペクトラムが広域すぎる抗菌薬でもあるので,PCGやAMPCで戦えるような溶連菌では,再感染を反復し,徹底的な除菌を目的としない限り,安易に使用することは控えるべきだと考えます。
再感染・反復するような症例の場合には,セフェム系抗菌薬の選択を考慮することがあります。溶連菌が上皮細胞に侵入することにより,細胞内移行性の乏しいペニシリン系抗菌薬では殺菌しきれない5)ことが要因の1つとされているためです。
まず,第1世代経口セフェム系抗菌薬(CEX)は,バイオアベイラビリティが90~99%とAMPCの80~90%と同等以上に高く,素晴らしい薬剤ではありますが,溶連菌以外にメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(methicillin-sensitive Staphylococcus aureus:MSSA)までカバーしてしまっており,AMPCに比べ,スペクトラムが広域な抗菌薬だったりします。ゆえに,患者がペニシリンアレルギー(即時型・Ⅰ型ではない)であった場合には選択しますが,やはり基本はペニシリン系抗菌薬となります。CEXには徐放剤がありますので,これを選択すれば1日2回投与です。
次に第2世代経口セフェム系抗菌薬(CTM-HE)は,バイオアベイラビリティが68%という微妙な数値かつ,溶連菌以外に大腸菌などの余計な細菌まで微妙にカバーしてしまっている抗菌薬であったりします。外来診療での尿路感染症などには使える抗菌薬でしたが,わが国では2016年7月には販売中止,2017年3月には在庫消失となり,現在,市場から消えてしまった抗菌薬です。
最後に,第3世代経口セフェム系抗菌薬(CFDN・CFTM-PI・CFPN-PI・CDTR-PI)は,バイオアベイラビリティがそれぞれ25%・不明・35%・16%と非常に低く,ほとんどが体内に入らず,尿中に排泄されてしまいます。それでも溶連菌には十分効果が期待でき,再感染・反復症例などにはペニシリナーゼに影響を受けない抗菌薬として選択することはあります。しかし,この中でピボキシル基(PI:バイオアベイラビリティを上げるために搭載させたもの)がついた薬剤は重篤な低カルニチン血症を誘発し,低血糖・痙攣・脳症などを起こし,後遺症を残すリスクがあり,慎重に投与する必要があります(2017年4月医薬品医療機器総合機構:PMDAより注意喚起)。この抗菌薬は1日3回投与が必要となり,やはり溶連菌にはペニシリン系抗菌薬が基本となります。
その他,最近のわが国のJANISの報告ではマクロライド系抗菌薬は30~40%が耐性,リンコマイシン系抗菌薬では15~20%が耐性となっており,治療失敗に終わる可能性もあります。ペニシリンアレルギー(即時型・Ⅰ型)の場合で,ペニシリン系・セフェム系抗菌薬が選択できない症例でない限りは処方しないほうがよいと思われます。
緑膿菌,マイコプラズマ,クラミジアなどまでの細菌をカバーしたスペクトラムが非常に広域すぎる経口キノロン系抗菌薬(TFLX:オゼックス®細粒小児用15%)は溶連菌には効きますが,AMPCで治療できる溶連菌に使うメリットは何もありません。当然のごとく,経口カルバペネム系抗菌薬(TBPM-PI:オラペネム®小児用細粒10%)も必要ありません。
セフェム系抗菌薬5日とペニシリン系抗菌薬PCV 10日間が同等という多少精度に欠ける論文もあるにはありますが,PCVの国内採用がなく,腸管吸収率の悪いバイシリン®G顆粒40万単位しか採用のないわが国においては,その論理にはさらに無理があります。耐性菌が市中感染症に溢れ,新しい抗菌薬の開発が期待できない「抗菌薬にゆとりのない時代」「抗菌薬衰退時代」でもあり,「効けばよい」という時代ではないと考えます。
そもそもペニシリン系抗菌薬10日間というのはリウマチ熱予防のための投与日数です。リウマチ熱がほとんどなくなった先進国の中でもわが国は医療機関へのアクセスがかなりよいということなども考慮し,確定診断をして,抗菌薬投与3~4日後に効果判定,奏効していれば3~4日投与(総計7日間)します(保育園での流行時期のピークもそのくらいで終えることも考慮)。PK/PD理論などのシミュレーションも含め,私はAMPC 60mg/kg/日・1日3回,7日間投与6)で日々臨床の現場で実施していますが,まったく問題はなく,患者のアドヒアランスも非常によいようです6)。
【文献】
1) 齋藤昭彦, 監訳:ネルソン小児感染症治療ガイド. 第2版(原書:第22版). 医学書院, 2016.
2) Social Security Administration:The Red Book 2016. CreateSpace Independent Publishing Platform, 2016.
3) 菊池 賢, 他, 監修:日本語版サンフォード感染症治療ガイド 2017. 第47版. ライフサイエンス出版, 2017.
4) Brook I:Rev Infect Dis. 1984;6(5):601-7.
5) Neeman R, et al:Lancet. 1998;352(9145):1974-7.
6) 永田理希:Phaseで見極める! 小児と成人の上気道感染症. 日本医事新報社, 2017, p219.
【回答者】
永田理希 医療法人希惺会ながたクリニック院長/ 感染症倶楽部シリーズ 統括代表/ 加賀市医療センター感染制御・抗菌薬適正指導顧問医/金沢大学医学部非常勤講師