下顎大臼歯~前歯の知覚およびオトガイ神経領域の知覚(下唇,オトガイ・口角)を司っている下歯槽神経の知覚異常を呈する病態である。悪性腫瘍からの転移・浸潤,下歯槽神経原発の腫瘍,急性下顎骨骨髄炎により発生することが知られているが,近年では下顎智歯抜去,デンタルインプラントの埋入操作による医原性の下歯槽神経麻痺も増加傾向にある。
下歯槽神経麻痺により麻痺の原因となる箇所から末梢に走行する神経支配領域の歯牙,歯肉(オトガイ孔より前方部),下唇(下唇粘膜を含む),オトガイ,口角の知覚低下を認める。
下歯槽神経麻痺の原因を追究することが重要であり,numb chin syndromeを代表とする悪性腫瘍,下顎骨骨髄炎による神経麻痺,抜歯後の医原性による神経損傷による神経麻痺がある。前者にみられる神経麻痺の原因が副次的に発症したものであれば,その原因の精査が必要であるが,後者の医原性を代表とする神経損傷では,損傷がどの程度であるかを診断することが必要である。一般的に,神経損傷の分類ではSeddon分類,Sunderland分類があり,前者では一過性神経伝導障害(neurapraxia),軸索断裂(axonotmesis),神経断裂(neurotmesis),の3つに分類しており,後者では軸索断裂と神経断裂をさらに各々2つにわけており,一過性神経伝導障害を含めるとⅠ~Ⅴの5段階で分類し評価をしている。
神経損傷の程度を診断するためには,主観的知覚検査〔Semmes-Weinstein Monofilaments(SW)テスト,2点識別閾値検査など〕,客観的検査(画像検査,知覚神経活動電位導出法など)が必要となる。
ここでは主に医原性の損傷による下歯槽神経麻痺に焦点を当て治療方針を記す。
損傷した神経は,損傷した時点での障害が継続するのではなく,経時的に損傷した神経の再生が進む。そのため,回復傾向なのか病的な状態が継続しているのかを専門医が判断するのには損傷後早期で2回以上(1カ月1回)の検査が必要である。損傷の程度を診断するには早期症例であっても時間を要するため,その間に保存的治療を進める。神経断裂などの重症例であれば,診断の時点で早急に手術の日程を組む。しかし,神経損傷を起こしてしまった担当医が明らかに神経切断をしたという客観的な資料(写真など)の情報提供と患者の自覚・他覚症状から早急に外科手術を進めることもある。神経損傷後の治療期間は最大で2年としている(神経修復手術を施行した場合も治療期間は術後2年としている)。
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