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顎関節脱臼[私の治療]

No.5229 (2024年07月13日発行) P.54

重野健一郎 (東京歯科大学口腔顎顔面外科学講座)

登録日: 2024-07-14

最終更新日: 2024-07-09

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  • 顎関節脱臼とは,下顎頭が過剰な滑走運動によって骨関節構造が許容できる可動範囲を逸脱し,自力による復位ができず偏位状態に陥ることである。ほとんどは下顎頭が関節結節を超えて前方に逸脱した前方脱臼である。前方脱臼を生じると開口状態で固定され,いわゆる「アゴがはずれた」状態に陥る。

    ▶診断のポイント

    【分類】

    完全脱臼:自力で整復できない非可動状態
    不完全脱臼:抵抗感が生じるものの自力で整復できる状態
    両側性脱臼:両側が同時に脱臼した状態
    片側性脱臼:左右いずれか側のみ脱臼した状態
    新鮮脱臼:発症して間もない状態
    陳旧性脱臼:発症後2週間以上放置され,整復困難に陥った状態
    習慣性脱臼:通常の下顎運動の経過中においても容易にかつ頻繁に脱臼する状態

    【症状】

    両側性と片側性では臨床症状が異なる。両側性の場合は下顎が前方突出し,開咬を呈し閉口不能となり流涎を認める。顔貌は面長で鼻唇溝の消失,両側下顎窩上の耳前部皮膚の陥凹と圧痛を認める。片側性の場合は下顎正中が健側に偏位し,顔貌は下顔面の非対称がみられ,患側下顎窩上の耳前部皮膚の陥凹と圧痛を認める。新鮮の場合は自発痛を自覚することが多いが,陳旧性では自覚症状は緩解する。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    新鮮脱臼は,徒手的整復術(Hipocrates法,Borchers法)による非観血的整復術を行う。

    ・Hipocrates法:患者を坐位とし,術者は患者の前方に立ち両手拇指を患者の両側下顎大臼歯部に添えて,その他の指で患者の両側下顎角部,下顎下縁部を把持する。下顎大臼歯部を下方へ圧下し,同時に下顎下縁部を前方に回転させ下顎頭を引き下げる。その後,下顎全体を後上方へ押し込み,下顎頭を下顎窩内に誘導する。

    ・Borchers法:患者を坐位とし,術者は患者の後方に立ち両手拇指を患者の両側下顎大臼歯部に添えて,その他の指で患者の両側下顎下縁部を把持する。その後はHipocrates法と同様の手技で下顎全体を回転させ整復する。

    陳旧性脱臼は徒手的整復が困難な場合が多く,観血的整復術を選択する。手術的に関節包を開放して癒着部を剝離し,関節円板と下顎頭を下顎窩内に整位する。上記でも整復困難な場合は関節円板を切除し,下顎頭を下顎窩内に整位する。

    習慣性脱臼は,再発防止に治療の主眼が置かれる。まず徒手的整復を行い,再発防止策として顎間ゴム牽引による下顎運動制限を行う。効果が得られない場合は,観血的治療法に移行する。軟組織に対する手術は側頭腱膜短縮術,関節包縫縮術などがある。硬組織に対する手術は2通りある。浅い下顎窩と低い関節隆起の顎関節構造を呈する場合は,下顎頭の前方滑走に対する抑制のための障壁形成を目的とした関節隆起増高術や,ミニプレートを用いるBuckley-Terry法がある。下顎窩が深く,関節隆起が高く顆路角の大きい関節形態を呈する場合は,過剰に前方滑走した下顎頭が容易に復位できるよう関節隆起の高さを減じることを目的とした関節隆起削除術を選択する。

    WEBコンテンツ「即応可能!顎関節脱臼整復テクニック」

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