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パーキンソン病[私の治療]

No.4980 (2019年10月05日発行) P.46

西川典子 (国立精神・神経医療研究センター病院脳神経内科医長)

登録日: 2019-10-07

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  • パーキンソン病(Parkinson's disease:PD)は,運動緩慢,筋強剛,静止時振戦といった主な運動症状と,全身の様々な非運動症状が出現する神経変性疾患である。高齢になるほど有病率・罹患率が高くなる。病理学的にはドパミン神経細胞の変性・脱落と,変性した神経細胞内のαシヌクレインの凝集体であるレビー小体が特徴である。

    ▶診断のポイント

    PDは運動症状である運動緩慢,筋強剛,静止時振戦により診断する。パーキンソニズムを呈する他の疾患を除外して診断する。日常臨床で遭遇することが多いのは,薬剤性パーキンソニズム,脳血管性パーキンソニズム,正常圧水頭症であるが,PD以外の神経変性疾患(進行性核上性麻痺,大脳皮質基底核変性症,多系統萎縮症など)も経過・症状や画像検査などで除外する。また,PDでは便秘,嗅覚障害,精神症状(うつ,不安),レム睡眠行動異常症などの非運動症状を病初期から伴うことも診断の一助となる。PDは比較的緩徐な進行性経過をたどる。3年以内に車椅子を必要とするほど経過が早い場合には,他の変性疾患の可能性を検討する。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    L-dopa製剤を中心にドパミン補充療法を基本として,パーキンソン症状を改善して社会生活や日常生活を維持していくことが治療の目標である。L-dopa製剤は他のPD治療薬に比べて有効性,安全性ともに優れている。

    若年(65歳以下)発症者では運動合併症のリスクが高いために,ドパミン作動薬やモノアミン酸化酵素B(monoamine oxidase B:MAO-B)阻害薬を用いて治療を開始する。症状に合わせて漸増し,症状改善が不十分な場合にはL-dopaを追加する。65歳以上で発症したものや認知機能低下がみられる場合,また症状が重い場合には,L-dopa製剤を中心に,副作用の少ない薬としてゾニサミド,少量のドパミン作動薬を組み合わせて治療する。進行期になり,薬効時間が短くなるウェアリングオフ現象が出てくると,L-dopa製剤の内服回数を増やしたり,L-dopa製剤の代謝酵素阻害薬であるMAO-B阻害薬やカテコール-O-メチル基転移酵素(catechol-O-methyltransferase:COMT)阻害薬を併用したり,ドパミン作動薬など内服薬の種類を増やして対応する。内服薬でコントロール困難な症状変動に対して,若年発症例では脳深部刺激術やレボドパ・カルビドパ経腸用液療法などのデバイスを用いた治療も検討する。進行期のPD治療は複雑であるため,専門医に相談することが望ましい。

    また,便秘や排尿障害,起立性低血圧などの自律神経障害や不眠や過眠などの睡眠障害,抑うつ不安などの精神症状,痛み,やせ,疲労などがしばしば認められる。これらの非運動症状に対しては,症状を見逃さずに対症法を実施する。運動・リハビリテーションも早期から導入することが重要である。

    【注意】

    閉塞隅角緑内障の患者ではトリヘキシフェニジルやレボドパ合剤をはじめ,ほとんどの抗PD薬で禁忌となっているが,実際には眼圧を確認しつつ少量のL-dopa製剤で治療することが多い。MAO-B阻害薬は,三環系抗うつ薬,選択的セロトニン再取り込み阻害薬などとの併用が禁忌である。抗精神病薬,定型抗精神病薬は禁忌である。せん妄状態,幻覚妄想状態の場合に鎮静薬を必要とした場合には,パーキンソニズムを悪化させにくい非定型抗精神病薬であるクエチアピンを用いる。

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