内科研修後、血液内科の臨床と分子生物学的研究を少し齧った程度の私が、諸事情により在宅医療を主業務とする診療所を横浜で開業したのは、2004年春のことだ。当時の横浜南部地域では、在宅医は今ほど多くなかった。24時間対応可能な在宅医はめずらしい存在だったといってよい。そういう事情もあって、私1人でこぢんまりと始めた診療所には、地域の訪問看護師やケアマネジャーから少しずつ着実に患者の紹介が舞い込むようになった。形式上医師の指示さえあれば動くことのできるベテラン訪問看護師たちにとっては、深く考えずに紹介を受け入れる私は、恐らく都合の良い医師だったのだろう。緩和ケアに難渋しているがん患者や、家庭事情が絡み合っている患者等、紹介されるケースの難易度も上がっていった。
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