マーフィーの法則「If anything can go wrong, it will」の最悪は、法医学領域では殺人事件である。この法則は法医学でも大事と教えているが、それを実感した思い出の事案をご紹介したい。
年末の夜、教室から帰宅して息子との夕食中に連絡があった。「頸部刺創による自殺と思うが、凶器がない」。ご遺体があり、明日は米国大統領が来京して警備に手をとられるので、すぐに司法解剖してほしいという。
解剖は午後10時から始まった。解剖台のご遺体は無念そうな顔をしていた。左側頸部に刺創が1箇所あり、失血死なら顔面蒼白のはずが、顔面うっ血と顔面・眼瞼・口腔粘膜の溢血点を認めた。前頸部を見るとうっすらと赤紫色変色斑が左右2箇所認められた(写真)。「扼頸はヤッケイだ」と呟くと、検視官が顔面蒼白になった。慌てて警察電話に飛びついて、指示を出しはじめた。これが、スナックママ連続殺人事件の木屋町第一事件(警察庁指定119号)の始まりである。
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