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齲蝕,歯髄炎[私の治療]

No.4986 (2019年11月16日発行) P.57

恩田健志 (東京歯科大学口腔顎顔面外科学講座講師)

登録日: 2019-11-19

最終更新日: 2019-11-12

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  • Streptococcus mutansを主とする感染症で,複数の因子が関与する多因子疾患である。S. mutansは,ショ糖を基質として菌体外多糖類である不溶性グルカンを形成し,歯面に強固に結合し,多種の細菌集落であるプラークを形成する。
    プラークは多様な細菌が存在し,それぞれの拮抗因子などの相互作用を経て形成される膜状構造体(バイオフィルム)である。
    バイオフィルム形成により抗菌薬から細菌は守られ,産生された酸が局所に停滞することによって歯質の脱灰が生じる。
    齲蝕には,エナメル質齲蝕,象牙質齲蝕,セメント質齲蝕(根面齲蝕)があり,好発部位は,小窩裂溝,隣接面,歯頸部,露出セメント質である。
    初期は歯冠部表層のエナメル質齲蝕あるいは歯根部表層のセメント質齲蝕であるが,病巣が拡大進行すると象牙質齲蝕となり,さらに進行し,歯髄に達すると歯髄炎を呈する。
    高齢者は,唾液分泌量の減少から口腔内が乾燥傾向で,歯肉退縮も生じるため,根面齲蝕になりやすい。

    ▶診断のポイント

    【症状】

    初期の平滑面エナメル質齲蝕は,肉眼的に不透明な白斑あるいは褐色斑として認められ,小窩裂溝部では褐色の着色として観察される。

    齲蝕がエナメル質の範囲にとどまっている場合は,自発痛はない(齲蝕症1度:C1)。

    齲蝕病巣が象牙質に達し,エナメル質表面が崩壊すると齲窩を形成し,冷水痛が発現する。象牙質はエナメル質と比較して石灰化度が低いため,齲蝕の進行が速くなる傾向がある(齲蝕症2度:C2)。

    象牙質齲蝕が進行し,歯髄に影響が及ぶと歯髄炎を惹起し,強度の自発痛が発現する(齲蝕症3度:C3)。

    歯髄炎が進行すると歯髄壊死が起こり,一次的に疼痛は軽快するが,病状は進行を続け,根尖孔から根尖部周囲組織に波及し,根尖性歯周炎に移行する。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    齲蝕は脱灰と再石灰化を繰り返すダイナミックな病態を示すため,エナメル質に限局した病変はもちろん,象牙質に達する病変でさえも齲蝕リスクを低くコントロールできる場合には,切削せずに再石灰化処置を施して経過観察することにより良好な経過が得られることが多い。

    白斑あるいは褐色斑として認められるエナメル質初期齲蝕に対しては,フッ素塗布やフッ化物徐放性グラスアイオノマーセメントの塗布により,再石灰化が期待できる。

    初期齲蝕をレジン系材料で封鎖することは,齲窩形成の抑制において有効である。

    齲窩を形成した場合は自然治癒が見込めないため,最少の切削介入を行い,コンポジットレジンなどを充塡する。

    象牙質齲蝕の切削も,齲蝕の進行・拡大が切削介入することでしか停止できない,また,切削でしか機能的・審美的回復が図れないと診断した場合に限るべきである。

    切削介入する場合には,細菌が侵入し感染が成立した「感染象牙質」と,脱灰してはいるが細菌感染はなく,再石灰化が可能な「齲蝕影響象牙質」とを鑑別し,切削を感染象牙質にとどめることが重要となる。

    歯髄が臨床的に健康であれば,たとえ感染していても象牙質を除去せず,これを無菌化し再石灰化を促して歯髄を温存する場合もある。

    初期の根面齲蝕では,非切削にて再石灰化によりその進行を抑制し,齲蝕をマネジメントすることが提唱されており,これは特に在宅医療に代表される治療環境に制限がある場合には有益な対処法である。

    実質欠損が大きい場合には,従来どおり感染歯質の切削を伴う充填処置を行う。

    可逆性歯髄炎の場合は,齲蝕の除去後,菲薄・脆弱化した健全象牙質に対して,水酸化Ca製剤などの覆髄剤を一層設けることで外来刺激を遮断し,歯髄を安静に保つとともに,歯髄に修復象牙質の形成を促し,歯髄を保存する。

    不可逆的歯髄炎の場合は,歯髄の除去を行う(抜髄)。

    歯根未完成の幼若永久歯に対しては,罹患した冠部歯髄のみを除去し,健康な根部歯髄を生存させて歯根形成を促すアペキソゲネーシスを試みる。

    根部歯髄が保存できない場合は,根管内の感染物質を除去し,暫間的に根尖部に薬剤を貼付することで,硬組織の添加による根尖孔を閉鎖するアペキシフィケーションを行う。

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