ビスホスホネートやデノスマブの骨吸収抑制薬および血管新生阻害薬による治療歴のある患者に生じる顎骨骨髄炎・顎骨壊死である。歯性感染症に抜歯などの炎症が加わることで発生することが多い1)。わが国では,増加傾向にある2)。
骨吸収抑制薬および血管新生阻害薬による治療歴があり,8週間以上持続して口腔・顎・顔面領域に骨露出か骨壊死,骨蝕知を認めること。また,放射線照射歴がないこと,骨病変ががんの転移でない場合を薬剤関連顎骨壊死(medication-related osteonecrosis of the jaw:MRONJ)/ビスホスホネート関連顎骨壊死(bisphosphonate-related ONJ:BRONJ)と判断する。
初期のステージ1では,口腔粘膜の瘻孔,骨露出を生じる。ステージ2では,疼痛や排膿,単純X線写真での骨溶解像をきたす。さらにステージ3になると,皮膚からの瘻孔や顎骨の広範な破壊像を呈し,病的骨折をきたす場合もある。著しい腫脹や疼痛,持続的排膿による悪臭などにより,患者のQOLが大きく低下し,原疾患の治療にも影響を及ぼす。
ステージ0は,骨露出はないものの,歯原性ではない疼痛が生じるとされており,注意が必要である。
MRONJ/BRONJの治療はステージで異なり,保存療法と外科療法からなる。口腔衛生管理は特に重要である。
ステージ0,1は保存療法が主体であり,含嗽や局所洗浄などが主体である。
ステージ2,3は保存療法に加え,外科療法を考慮する。症状により抗菌薬投与や鎮痛薬などを用いる。腐骨からの分離菌はペニシリン系抗菌薬に感受性を示す。また,ペニシリンアレルギーの場合には,マクロライド系やリンコマイシン系抗菌薬などが有効である。第3世代セフェム系抗菌薬はバイオアベイラビリティが低く,組織移行性も低いため,漫然と用いるべきではない。ハイリスクで強度の加療が必要になる場合を除き,耐性菌の蔓延を防ぐため,抗菌力が強く,広域スペクトラムを持つキノロンやドキシサイクリンなどをエンピリック治療の第一選択薬としない。細菌培養を行い,デフィニティブ治療へ移行する。
鎮痛の際には,非ステロイド性抗炎症薬やアセトアミノフェンなどの一般的な鎮痛薬のほか,末梢神経障害をきたした場合にはプレガバリンなどの鎮痛補助薬も考慮する。末梢神経障害の改善のために,ビタミンB12剤や副腎皮質ステロイドなどを用いる。栄養管理として,経腸栄養薬なども考慮する。
また,骨露出部は表面が粗糙で,食物残渣や細菌の温床となりやすいため,外科療法は,骨露出部のバイオフィルムの除去に有効に作用し,抗菌療法が有効になる。
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