甚大災害をもたらせた昨年の台風19号の被害に心が痛んでいた10月のある晩に見たNHKの人気テレビ番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」で取り上げられた放送に心を留めた。その放送の舞台は、三重県の山深い里にポツリとたたずむ小さな電器屋さんの話。そこに修理を断られ、見放された家電具が全国各地から続々とやってくる。店主・今井和美さん(60)に命を再び吹き込んでもらうためだ。今井さんの修理成功率はなんと95%超!依頼者の「まだ使いたい」に応えるため、半世紀にわたって数え切れない家電と向き合ってきたという。その驚くべき修理技術と、貫く流儀に迫った番組であった。
この今井さんの若い頃、大阪の電気店に勤めていた頃のエピソードで語る内容が興味を引いた。今井さんは田舎に住んでいた子どもの頃から電気機械の修理が得意で、近所の大人たちから修理を持ち込まれる度に、古い使い慣れた機械の修理をこなしてきたそうである。その際、修理が出来上がると依頼した方から大そう喜ばれたことが子ども心にも嬉しく心に刻まれていった、と話をされていた。しかし、大人になって勤めた大阪の電気店では、修理の注文が舞い込むと懸命に修理しようとした今井さんに対し、店長はこういったという。「そんなもん修理したらあかん!」「新しい電気具が売れんから修理はできないと答えろ」と言ったという。その後、今井さんはこの電気店をやめてふるさとの三重の山里深い地で一人「今井電気店」を開いて、これまで様々な電気具の修理を続けてきたということである。
今井さん自身、依頼者が長く使用してきた愛着の強い電気具に対して同じく愛着を感じているような気持ちが伝わってきた。その卓越した技術によって依頼者の要望に応えていくことでいかに喜んでもらえるか、また、その依頼者が喜ぶ心を感じ取って彼自身が強い達成感、満足感を得ていることがよく映し出されていた。最後に記者のインタビューに対して、「今井さんにとってプロフェッショナルとは?」との問いに対して彼はこう応えた。「依頼者の求めに精一杯のことをして修理していくことかな」とポツリと応えていた。
翻って、自身外科医として40年以上臨床現場で勤務し若手外科医を指導する立場であったことから、医師のプロフェッショナリズムについてその姿勢を伝えてきたことと、この今井さんの生き方がオーバーラップすると感じさせられた。医師のプロフェッショナリズムについては、その中でも真の医師としてのあるべき姿は、その行動様式の中で倫理的姿勢面が最も重要なものであると、私自身は考えている。昨今、経営的側面、マネージメント能力なども医師にも求められるプロフェッショナリズムの1つの能力であると言われたりするが、それは理解できる点ではあるが、すべての根底にあるべき倫理的姿勢、すなわち、医師としての人間性、土台となるべきもの、その姿勢が最も重要である点を強く認識するべきであろう。医師に依頼を求めてやってくるのは病に苦悩する患者さんである。その患者さんの、病を治して欲しい、という願いに対し、医師ができる限りの努力、ありとあらゆる努力をして、患者さんの願いに最大限応えていく姿勢が、医師としてのプロフェッショナルたるものであろう。
疾病の各種ガイドラインなどが多数出版されているが、一人ひとりの患者さんの要望に合致した、患者さんにとってベストな治療を提供すべく、医師が他の医療人らとともに最大限の努力を常に行っていくことが、医師のプロフェッショナリズムであろう。