労働環境が目まぐるしく変化する現代社会において、過重労働対策やメンタルヘルス不調への対応、治療と仕事の両立支援など、産業医に求められる職務は広範多岐にわたる。
平成30年6月に働き方改革関連法が成立し、労働者それぞれの事情に応じた多様な働き方の実現のために、労働時間に関する制度の見直し、勤務間インターバルの普及・促進などの措置や産業医・産業保健機能の強化がなされた。
平成30年1月に日本医師会において実施した「産業医に関する組織活動の実態調査」において、産業医から「職務の多様化と負担増」や「産業医の地位向上」などに関して様々な意見が寄せられた。産業医に求められる役割や業務が増大し、その職責が高まる一方で、産業医は身分保障や不適正な報酬、地域偏在や需給等の課題に直面していることから、産業医活動を支援する体制の整備が急務である。
日本医師会では、産業医の資質向上と産業医活動の推進を目的に平成2年4月に日本医師会認定産業医制度を創設し、昨年(2019 年)1月に日本医師会認定産業医が総数10万人を超えた。これを機に日本医師会では「産業医を守る」という観点から、産業医のスキルアップと行き届いた活動支援が幅広く行えるように「全国医師会産業医部会連絡協議会(仮称)」を、今年6月を目途に設置する。都道府県医師会や郡市区医師会に設置されている産業医(部)会などの協力を得るとともに、厚生労働省をはじめとする産業保健関係団体とこれまで以上に連携を密にし、日本医師会主導で産業医の全国ネットワークづくりの推進・充実強化を図っていくものである。
これから産業医は、人生100年時代を迎える中で、法律で規定された最低基準の業務を行うだけではなく、急速に変化する時代を先取りし、質の高い活動とリーダーシップを発揮していくことが期待される。産業医を中心とした産業保健活動の展開は、労働者の健康の保持増進を通じて、活力ある社会の構築に大きく貢献するものと確信しており、日本医師会としても産業医の活動支援や体制整備に取り組んでいく所存である。