顎骨骨折は,スポーツ,殴打,転倒など,比較的単純な外力によるものと,高所からの転落,交通事故などの高エネルギーによるものなど,様々な原因で起こる。受傷時の情報は特に重要で,救急隊員や同行者から「いつ,どこで,どんな状況」であったかを把握することは,治療方針の立案に大いに参考となる。また,受傷時の意識障害の有無についても,その後の治療に影響が出るため確認することが重要で,必要があれば脳外科に精査を依頼する。また,顎骨骨折だけでなく,皮膚や粘膜,歯にも受傷がないかを確認し,治療計画を立案する。
顎骨骨折を疑う場合は,咬合の偏位があることが多いため,確認する。上顎であれば,前額を支えながら上顎歯列を把持して左右に動かし,異常可動性や軋轢音の確認をする。下顎であれば,開閉口時の動きを確認するとともに,関節部の圧痛や骨折部に一致した圧痛があるか確認する(Malgaigneの圧痛点)。そのほか,眼鏡様出血(black eye)や耳後部の皮下出血(Battle’s sign)など,顎骨骨折では多発骨折に留意しつつ診察する必要がある。
パノラマX線画像にてスクリーニングを行い,上顎の骨折が疑われる場合はWaters撮影法,下顎であれば斜位や咬合法,関節突起部の骨折であればSchüller法などを併用する。CTでの情報は有効で,三次元CT画像は骨折の状態を立体的に評価することが可能で,手術前診断,治療法の決定,患者への説明に有用である。
顎骨骨折の治療で重要なのは,①整復・固定,②栄養管理,③感染予防,である。まず,患者の受傷状態により軟組織損傷があるようなら,優先的に治療を行った上で,感染予防に努める。受傷状態や患者の状態を考慮して,重点的な栄養管理が必要であれば,入院下での管理を患者に勧める。骨折の偏位がほとんどなく咬合の偏位が認められない不完全骨折である場合は,シーネ等を装着するのみの非観血的治療を選択する。骨片の偏位や咬合の偏位が大きく,観血的な整復が適当と考えられた症例については,観血的治療を選択する。
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