わが国では高齢化に伴って、事業用自動車運転者(以下、職業運転者)の平均年齢も増加しています。法人タクシー運転者の平均年齢は59歳であり、60歳以上が全体のほぼ3/4を占めます。バスやトラック運転者の平均年齢も全産業の平均より高く、年々高齢化が進んでいます。
職業運転者では、1日の勤務時間について法で定められています(例えば、トラックやバス運転者は基本的に1日13時間以内で、16時間が限度)。また、休息時間も継続8時間以上と定められています。しかし、労働時間についての違反が多く、職業運転者は過重労働を強いられているのが現状です。したがって、職業運転者の労働時間は、全産業労働者の平均より長いのです。しかし、年間所得では、職業運転者のほうが、全産業労働者の平均所得より低いのです。
職業運転者は、運転時間が長いだけでなく、夜間の運転を含む緊張や疲労、姿勢の拘束、輸送の安全のための精神的負担による心身のストレス負荷が大きいです。したがって、職業運転者では心疾患の発症リスクが高いです。また、長時間の座位や不規則な食生活などにより、生活習慣病のリスクが高く、様々な病気の発症リスクが高いと言われています。それゆえ、定期健康診断の結果では、道路貨物事業従事者の58.9%、道路旅客事業従事者の72.0%が、何らかの所見ありと判断されています。
職業運転者では、事故発生件数は全体的に減少傾向ですが、健康起因事故は増加傾向です。したがって、運転者の体調を含めた職場環境に、より配慮しなければなりません。国土交通省は2014年6月に、事業用自動車に係る関係団体に対して、事業用自動車の運転者の体調急変に伴う事故を防止するための対策の徹底について通達を出しました。体調変化に起因する事故の多くは、さまざまな配慮で予防することができるからです。
私は、輸送業界での実態を調べるために、タクシー協会や国土交通省の協力を得て、栃木県内の法人タクシー運転者に対して健康と運転に関する実態調査を行いました。
その結果、全体の28.5%の人が、乗務前に体調が悪くても運転をしたことがあり、半数以上の人が、収入面を理由に挙げていました。また、中には、運転中の体調不良を理由に運転を中止したいと言い出しても、会社に許可されなかったという人が複数いました。さらに、「体調が悪い時には運転を控える」という、当然の指導を受けていたのは全体の76.0%であり、すべての会社で十分な指導が行われていない現状が分かりました。そして、体調が悪い時に気軽に言い出せる職場環境であるかをたずねたところ、16.0%の人が言い出しにくい環境であると答えていました。
職業運転者に対して体調管理を厳格に行うよう指導することはもちろんですが、職場環境も重要な因子であることが分かります。職業運転者を診察されている先生や職業運転に関する事業所の産業医をお務めの先生におかれましては、職業運転者の事故予防に向けたご協力をお願い致します。