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【識者の眼】「新型コロナウイルス感染症による『隔離』処遇が適切に行われることを願って」堀 有伸

No.5001 (2020年02月29日発行) P.60

堀 有伸 (ほりメンタルクリニック院長)

登録日: 2020-02-14

最終更新日: 2020-02-14

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新型コロナウイルス感染症が注目を集めています。精神科医の立場から一つ気になるテーマを見つけました。医学的な名目で行われる、人間の「隔離」処遇についてです。

現在、横浜港には大型クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号が検疫のために停船を指示され、その中には約2700人の乗客と約1000人の乗務員がいるそうです。船内での感染の拡大が危惧される状況で、乗客の中の約1400人は日本以外の国の住民であるため、アメリカをはじめとした諸外国は、自国民にどのような処遇が行われるかを注視している状況と聞いています。

「隔離」は社会防衛と個人の人権が激しく葛藤を起こす事態であり、医学的な評価・介入はもとより、法的・社会的な面を含めた総合的な判断と実践を求められる措置です。しかし残念ながら日本社会には、この「隔離」を不適切に使用してしまった過去があります。精神科病院への精神障害者の長期入院の問題です。詳細は割愛しますが、1955年に約4万4000床だった精神科病床は、その後、精神科病院において患者が職員の暴力によって死亡するような事件が問題となったのにもかかわらず、1993年には約36万床にまで増加しました。最近は相当に短くなったものの、以前には数十年という単位で入院した患者さんも珍しくありませんでした。この精神科病院への長期入院の問題は十分に検証されないまま、現在に至っています。

私は日本社会で「隔離」が不適切に行われやすい背景に、日本社会での人間関係の特徴があると考えています。「外の人としてよそよそしく接する」か、「身内の上下関係に巻き込んで下に見る、あるいは上として仰ぎ奉る」かのどちらかに傾きやすく、基本的人権を尊重するというグローバルな形式を重んじて対等な関係を構築することが苦手です。

私は日本社会がこの弱点を乗り越え、今回のような「隔離」処遇が適切に行われることを願ってやみません。

堀 有伸(ほりメンタルクリニック院長)[隔離]

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