古事記の中にある「因幡の白兎」の話は、日本の医療発祥とされる神話である。
かいつまんで要約すると、騙したワニ(サメ)に丸裸にされて苦しんでいた白兎が、通りかかった大国主命(大穴牟知命)の「真水で体を洗い、蒲の穂に包まれると治る」との教えに従ってその通りにすると、見事に治癒したというストーリーである。
このことが、出雲が医療発祥の地とされる所以である。ただ、多分に私見ではあるが、この時大国主命は、触ると黄色に着色する蒲の穂の花粉(蒲黄と呼ばれる生薬)ではなく、蒲綿(結実後に熟して棒様のブラシ状になった雌花)を被覆材として用いたのであろうと推測する。ちなみに、兄神たちは大国主命の指示とは真逆の、「海水で体を洗って、風にあてて乾燥させよ」と白兎に教えていた。
さらに、これには「看護(の発祥)」にまつわる後日談がある。すなわち、国一番の美人という八上比売と結婚したいと望む兄神(八十神)たちの従者として同行していた大国主命が、白兎に示したそのやさしさから八上比売に気に入られてしまい、これに怒った兄神たちが虐めとして放った真っ赤に焼けた大岩(兄神たちは、これを「赤イノシシ」と偽った)を抱きかかえて大火傷を負って死んでしまうのである。
この時、大国主命を蘇生させたのが、大国主命の母神刺国若比売から遣わされた「蛤貝比売(蛤の神)」と「貝比売(赤貝の神)」という二人の女神であり、この二人の手厚い看護によって大国主命が蘇生したことから、「看護の女神」とされるのである。その際、二人の女神が大国主命を死に至らしめた大火傷の治療に用いたのが、「赤貝の削り粉」と「人乳(ないし蛤の汁とも言われている)」とされているのである。
貝殻の削り粉といえば「カルシウム(Ca)」であり、止血すなわち血液凝固におけるCaの重要性(ほとんどすべての段階においてCaイオンが必須)は周知のごとくであり、近年強い止血作用から重用されるようになった昆布由来のアルギン酸ナトリウム・カルシウム塩の創傷被覆材に通じるものである。
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