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英国での放射線リスク教育 [エッセイ]

No.4735 (2015年01月24日発行) P.70

杉田克生 (千葉大学教育学部基礎医科学教授)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-03-15

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  • 東日本大震災に伴う福島原子力発電所事故や子宮頸がんワクチンの副作用(副反応)の報道など、放射線や医療における科学技術への不信感が日本全土に蔓延している。

    有害事象とは、本来因果関係は問わず結果的に生体に好ましくない出来事の総称であるが、これがすべて因果を有する副作用と認識されてしまう。戦後、世界に類のない平和と安全な国家が形成されたためか、日常生活上不可避な不確実性を正しく認識できないことが一要因と思われる。医療技術も含め科学技術を推進するには、リスクを正しく認識する必要性を国民が共通に認識すべきであり、そのための科学技術に対する包括的科学リテラシー向上は喫緊の課題である。英国での放射線リスクの啓蒙ならびに教材の一端を紹介しながら、日本でのリスク認知やリスク教育のありようを考えてみた。



    2014年3月英国・リーズに出張した際に、St James’s University Hospital隣のThackray医学博物館を10年ぶりに訪問した。この博物館は、主に外科医療器具を販売していたCharles Thackrayが設立した博物館で、特に産業革命華やかなりし頃のこの地の疫病などを、人形やパネルで展示した英国随一ともいうべき博物館である。この館内で“X rays danger and development”と題するパネルが目に付いた。「X線が発見され医療にも応用され始めたが、時を経ずして患者や医師が眼痛や皮膚のやけどを呈した」と示してある。何一つ防御するもののないX線装置を操作していた王立ロンドン病院のErnest Harnackの写真も展示され、「X線障害により両手を失った」とある。

    X線装置が早期に導入された欧米でも1920年代まで放射線安全基準は存在しなかった。その後、基準が厳格化し、“Pedascopes”なるX線による靴合わせ装置が小児の“水虫治療”同様禁止された。英国知人に尋ねたところ、子どもの頃にこの装置を見たことがあると話していた。放射線リスクを教育する際には、欧米ならびに日本での放射線導入時からの一連の「有害事象」を因果関係の観点から正しく理解させることが重要である。

    日本の学校教育では、「安全教育」が指導要領に組み込まれている。たとえば文部科学省のホームページでは、「現行の学習指導要領における食育、安全教育、性に関する指導に関する主な内容」と題されたページで、「食育」「安全教育」「性に関する指導」がそれぞれどの教科で指導されるか示されている。「安全教育」は体育・保健体育、社会科、理科、生活科、特別活動、道徳など各教科にわたって災害、事故、応急手当、生命尊重などが指導されることになっている。“教科横断的な内容で取り組むべき内容”とされているが、要は主体な教科、ひいては担当教師がいないのが現状である。

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