日本医師会の「COVID-19有識者会議」(座長:永井良三自治医大学長)は5月18日、安倍首相が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬として早期の薬事承認を目指す意向を示している「アビガン」(一般名:ファビピラビル)について、拙速に特例的な承認を行うべきではないとする「緊急提言」を公表した。
緊急提言は、COVID-19治療薬開発に対する有識者会議の意見として17日付でまとめられたもの。「有効性が科学的に証明されていない既存薬(=他の疾患を適応症として既に承認されている薬剤)はあくまで候補薬にすぎない」「エビデンスが十分でない候補薬、特に既存薬については拙速に特例的な承認を行うことなく、十分な科学的エビデンスが得られるまで、臨床試験や適応外使用の枠組みで安全性に留意した投与を継続すべき」とし、ランダム化比較試験(RCT)などで有効性・安全性が確立されてから薬事承認すべきと訴えている。
薬剤名は明記されていないが、「最近COVID-19に感染した有名人がある既存薬を服用して改善したという報道や、一般マスコミも『有効』ではないかと報道されている既存薬をなぜ患者が希望しても使えないのか、と煽動するような風潮がある」などの記載から、有識者会議が「既存薬」として主に新型インフルエンザ治療薬アビガンを念頭に置いていることは明らか。
アビガンについては、安倍首相が5月4日の記者会見で「一般の企業治験とは違う形での承認の道もある」として、条件付き早期承認制度などを活用して5月中の薬事承認を目指す意向を示しており、提言は、こうした政府の動きを牽制したものとみられる。
日医の横倉義武会長はこれまでアビガンについて、ハイリスク者への使用の積極的推進などを政府与党に要望(4月27日)。読売新聞の取材に対してCOVID-19治療薬として早期に承認されることが望ましいとの考えを示しており(4月24日)、有識者会議の提言を日医がどう受け止めるかも注目される。
緊急提言は、5月7日に国内初のCOVID-19治療薬として特例承認されたレムデシビル(販売名:ベクルリー)については、「プラセボ対照ランダム化二重盲検比較臨床試験(ACTT-1試験)の結果に基づき、高いエビデンスレベルでCOVID-19に対する有効性が確認された初めての薬剤」と高く評価。「今後レムデシビルは、他の有効性・安全性に優れた薬剤の登場までの間、COVID-19に対する標準治療薬と位置づけられ、これを基準に薬剤開発が進められると予想される」との見方を示している。
ただ厚生労働省はレムデシビルについて、承認後の5月7日付留意事項通知で「臨床試験の成績が極めて限定的」と注意喚起。製造販売元のギリアド・サイエンシズも、米国で緊急時使用許可を取得した際のコメントなどで「レムデシビルは現在開発中の薬剤で、いかなる用途でもFDA(=米国食品医薬品局)の承認を得ておらず、COVID-19治療薬としての安全性と有効性は確立されていない」と強調しており、レムデシビルに対する有識者会議の評価はかなり踏み込んだものともいえる。
有識者会議には、レムデシビルの国際共同医師主導治験を進める国立国際医療研究センターの國土典宏理事長も参加している。
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日本医師会COVID-19有識者会議「新型コロナウィルス感染パンデミック時における治療薬開発についての緊急提言」(5月18日公表)
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