地域包括ケアという政策概念は、今のところ曖昧模糊とした抽象的なものと受け止められ、具体的に医療・介護従事者は何をなせばよいのか、戸惑っている関係者も少なくない。そこで、在宅医療に従事する立場から、多職種協働と医療・介護連携を軸に論じたい。
まず、要介護高齢者に生じた誤嚥性肺炎を例に多職種協働について考える。急性期病院に入院して抗生剤治療の後、肺炎が治癒したら一件落着とは限らない。せん妄や転倒事故、褥瘡、廃用筋萎縮、肺炎再発など、様々なトラブルを生じうるからである。さらに、必要な介入は肺炎治療だけにとどまらないという点が重要である。本来、並行して食形態の吟味、患者家族や介護者の食事介助技術の評価や指導、摂食・嚥下リハビリテーション、口腔機能改善のための歯科・口腔ケア、低栄養への栄養介入、全身の筋力維持強化、高次脳機能への適切な刺激など、多方面からの介入、すなわち多職種協働が必要不可欠である。
次に、医療・介護連携について考える。介護の役割として強調したいことは、患者家族や介護者が把握している要介護者の生活に関する情報を医療者側に伝達することである。例えば、食形態、咀嚼や嚥下の機能、摂取量や水分量、これらが時系列的にどのように変化しているのかなどの動的な“生活情報”が、診断や治療方針の決定、そして医療の質向上に重要な意味をもたらしうる。医師が限られた頻度の限られた診療時間の中で、網羅的に把握することには無理があるからでもある。
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