この数年,人生の最終段階における医療のあり方についての議論が進んできている。超高齢少子化多死時代にそなえて,要介護状態になっても住み慣れた地域で人生最後まで過ごせる社会として,地域包括ケアシステムの構築が必要なのは言うまでもない。また,個人があらかじめ希望する医療についての話し合いをうながす人生会議などの啓発も盛んになってきている。
一方で,実際に看取りに関わる中で,具体的にどのように言葉をかけてよいのか悩む医療者は少なくない。これは,今までの医学教育が正しい診断と治療を中心に発展してきたからである。本特集では,永年緩和ケアに携わってきた経験をもとに,看取りの現場で役立つ声のかけ方を紹介する。
病院内と異なり,自宅や介護施設では,医学的な専門知識を持った人達がいるとは限らない。そのため,看取りに近くなると,介護職員などは,関わることに苦手を感じる人も少なくない。適切な診断と治療だけが援助ではないと意識しないと,終末期の現場で,どのような声をかけるとよいのかがイメージできない。
終末期に限る話ではなく,広く一般的な考え方として,援助とは,相手が穏やかになれることを意識する。ここでいう穏やかとは,プラスの感情を総称したものと考えて頂きたい。プラスの感情には,嬉しい,楽しい,ほっとする,安心するなどがある。このようなプラスの気持ちになるためにはどうすればよいのかを考えると,どのような声をかけるとよいのかが見えてくる。
終末期現場で穏やかになれる総論としては,痛みがあるより,ないほうが穏やかである。希望しない場所で過ごすより,希望する場所で過ごすことができれば穏やかである。同様に,誰も知らない人達の中で過ごすよりも,家族や知っている誰かとつながりを感じて過ごせるほうが穏やかである。それは,希望する形で保清の維持が行われ,尊厳が守られることなどである。
看取りという励ましが通じない現場であっても,何をすると援助になるのか,関わるすべての人が理解しうる言葉で伝えることができなければ,看取りに関われる担い手は増えていかない。地域包括ケアシステムが普及するためには,看取りにまで関わる担い手が必要である。本特集で紹介するのは,「エンドオブライフ・ケア援助者養成基礎講座」として医療・介護従事者向けに実施してきた内容の抜粋である1)2)。
一人でトイレの移動が難しいと感じたとき,どこで過ごしたいですか?
これからの療養場所の意思決定支援において,本人・家族との話し合いの場で。
癌治療では,治療抵抗性で積極的な医療を提供できない状況であると,今後の療養について話し合う機会が設けられる。一般的には,今までの病状の経過,治療効果の変化などが伝えられ,現状,有効となる治療が難しいことなどの説明のあと,療養場所についての説明がなされ,本人と家族とともに決めて頂く流れとなる。慢性心不全や慢性呼吸器不全などの非癌の場合においても,主に治療内容についての説明がなされた上で,同様にこれからの治療内容の意思決定と療養場所についての話し合いとなる。しかし,不安の多い患者・家族の場合,どれほど丁寧に説明をしても,イメージができず,療養場所を決められなかったり,決めていてもすぐに救急車で病院受診を繰り返したりする現状がある。
では,これからの療養場所を決めていく意思決定支援においては,どのような言葉がよいのだろうか。まずは,人生の最終段階における共通の自然経過についての概略から伝えるべきである。
一般的に,病状の進行が進むと,食事量が減少していく。食事量が減ると同時に,ADLが低下していく。これは,赤ん坊の成長の逆であることを意識した上で,次のような問いかけを本人と家族に行っている。また,医師は会話中,患者の話した言葉を反復しているが,これは後述する「反復技法」を用いている。