No.5021 (2020年07月18日発行) P.14
登録日: 2020-07-17
最終更新日: 2020-07-17
新型コロナウイルスの感染拡大による影響で、社会のデジタル化が加速している。医療分野では、4月10日にオンライン診療・電話診療の初診が時限的・特例的措置として容認。政府の経済財政諮問会議はオンライン診療の普及・定着を最重要課題に位置づけており、今後の取り扱いに注目が集まる。オンライン診療を巡る最新の動き、現状、今後の展望について解説する。
経済財政諮問会議は7月8日、「経済財政運営と改革の基本方針2020」(骨太方針)の取りまとめに向け議論。診察から処方薬受け取りまでの一連の診療の流れについて「オンラインで完結する仕組みを構築する」などの文言を盛り込んだ原案を了承した。
オンライン診療を巡っては、骨太方針のほかに、政府が3日の未来投資会議に提示した「成長戦略実行計画案」にも「患者のみならず、医師・看護師を、院内感染リスクから守るためにも、オンライン診療を積極的に活用」と明記。自民党の行政改革推進本部の提言でも同様の方向性が強調されるなど推進の機運が高まっている。
診察から処方薬の受け取りまでをオンラインで完結できる環境が整えば、新型コロナウイルスの感染拡大防止に加え、患者にとっては医療アクセスの確保、医業収益が減少している医療機関にとっては経営改善にもつながる効果が期待できることから、診療プロセスのデジタル化が加速する可能性は高い。
現状のオンライン診療・電話診療について、時限的・特例的措置を踏まえた取り扱いをまとめたのが図。診療報酬の最大のポイントは、受診歴がない患者であっても医師が電話等を用いた診療が可能と判断した場合や過去に受診歴がある患者に生じた新たな症状の診察を行う場合に、電話や情報通信機器を用いた「初診料」(214点)が算定できるようになった点だ。
医薬品を処方した場合は「処方料」(42点)や「処方箋料」(68点)の算定が可能。現在受診中の患者について別の症状で診療を実施した場合はこれまで通り「電話等再診」(73点)を算定する。
今回の措置は、多くの医療機関や患者が活用できるように、電話やFAXなどを用いた診療でも初診料の算定が可能で、いわゆるオンライン診療システムを使う必要はない。そのため、オンライン診療システムの導入を検討する医療機関が急増するなどニーズは高まっているものの、ほとんどのケースが電話を用いた診療で算定しているのが現状だ。
現場では時限的・特例的措置をどのように捉えているのだろうか。2016年からオンライン診療を積極的に実施している山下診療所自由が丘・大塚の山下巖理事長はオンライン診療アプリ「curon」を展開するMICINが開催した7月2日のオンライン診療記者勉強会で講演し、電話診療とオンライン診療の評価を区別する必要性を強調した。
山下氏はビデオ通話を用いたオンライン診療について、対面診療に比べると収集できる情報が限られる一方、「電話よりも確実に多くの情報を得ることができる」と指摘。オンライン診療の実践を通じ、①患者の重篤度の評価が可能、②医療者が顔を見せて話すことで安心感を提供、③どのような状態でも医療者と患者がダイレクトにつながれるツール―など電話診療にはないメリットを実感しているとし、「“診断と治療”という枠組みではなく経過観察やサポートの重要性に気づかされた」と述べた。
山下氏は有効な活用法として、慢性疾患など持病の継続治療や初診オンライン相談、新型コロナウイルス感染症患者の診療などを挙げている。
厚生労働省は来月初旬に有識者会議を発足させ、電話やオンライン診療など情報通信機器を用いた診療について、今回の時限的・特例的措置の効果検証を踏まえて新たな運用の検討を始める予定だ。今回の措置は「新型コロナウイルスの感染拡大が収束するまで」のものだが、“収束”の定義も含めて議論する。
オンライン診療普及に向けカギとなるのは診療報酬の評価だ。従来のオンライン診療は電話診療よりも評価が低かった(表)。今回の措置で電話診療と同点数を算定できるようになったものの、経営難に苦しむ多くの医療機関にとって、一定の費用がかかるオンライン診療システムを導入するメリットは感じにくい。
オンライン診療は、医療施設における⼆次感染防止や院内感染を懸念する通院患者の受診回避防止、感染患者のトリアージによる重症化予防などの効果が期待される。オンライン診療の機能と活用法を踏まえ、電話診療と区別してコストに見合った評価がなされるか、今後の動向が注目される。