SUMMARY
精神面の問題に気づいたとき,1)プライマリ・ケア医が産業医である場合は安易に精神科医に依頼せず,適切な精神医学の知識をもって対応すべきであり,2)主治医としてかかりつけ患者を診た場合は患者の同意を得て,早期に産業医と連携したほうがよい。
KEYWORD
職域のメンタルヘルス
産業医は労働者の健康管理のために,健康診断,作業環境整備,健康教育などを行ってきたが,近年,うつ病,適応障害,長期欠勤者などが問題となり,労働者のメンタルヘルスへの対応を迫られている。
PROFILE
1981年慶應義塾大学医学部卒業,92年昭和大学医学部精神科講師,助教授,99年北里大学医学部精神科学主任教授,2015年北里大学東病院院長(兼務),20年北里大学病院病院長補佐(兼務)。著書 『大人の発達障害ってそういうことだったのか その後』,『こころを診る技術─精神科面接と初診時対応の基本』(ともに医学書院)ほか多数。
POLICY・座右の銘
この道より我を生かす道なし
病院では精神科医として患者の産業医と接する機会があり,企業では嘱託産業医として主に精神面の問題を有する人に対応している精神科医の立場から,治療と仕事の両立支援のためにプライマリ・ケア医に期待することを述べたい。
あらゆる精神疾患は身体愁訴や身体所見を有するため,精神科受診の前にプライマリ・ケア医の診察を受けていることが多い。早期に精神疾患の身体症状であることに気づいて,精神科受診を促す,あるいは患者の同意を得て勤務先の産業医に対応を依頼すれば,精神疾患の早期治療が可能となり,症状改善までの期間を短縮できる可能性がある。また,患者を精神科医に紹介する場合,最近は不適切なうつ病や適応障害の診断,ベンゾジアゼピン系薬剤の安易な使用など,知識の不十分な精神科医が少なくないので,慎重に選んで欲しいと思う。プライマリ・ケア医があらかじめ確かな臨床能力を有する精神科医と連携を持っていれば,患者に適切な医師を紹介できる。
精神疾患で休職する場合,産業医が人事担当者に助言して決定されるが,その際,外部の病院の精神科医の診断書や助言を参考にすることが多い。この場合,外部の医師は通常精神科医であるが,最近はプライマリ・ケア医が精神面まで治療対象にすることもある。この場合はプライマリ・ケア医の助言や診断書が必要となるが,休職するほどに精神症状が重症である場合は精神科専門医が治療したほうがよい。