私は地域の犯罪被害者支援センターの役員として運営に携わっています。犯罪被害による影響は精神的・身体的な異常から生活環境や人間関係の悪化などにつながりますので、被害を早期に回復し、様々な影響を軽減化できるよう、被害者を社会全体で支えていくことを目的としています。
同センターでは被害者からの様々な相談を受け付けていますが、年々相談件数が増加し、年間約2500件にもなりました。そして、相談内容として最も多いのは性犯罪についてであり、42%を占めていました。性犯罪では、被害者に対する医療が必要になります。
わが国では2017年に刑法が改正され、性犯罪に関する規定が厳しくなりました。改正のポイントとしては、①すべての性犯罪が被害者の告訴がなくても起訴できるようになった、②監護者による性犯罪に関する規定が新設された、③性犯罪に関する法定刑が引き上げられた、ことです。そして、旧刑法第177条の強姦罪が改正され、性別を問わず、暴行または脅迫を用いて性交、肛門性交、口腔性交することを強制性交と規定した、「強制性交等罪」に変更されました。
警察庁の統計によりますと、昨年の強制性交等罪の認知件数は1405件で、一昨年の1307件から増加しています。警察庁では、強制性交は凶悪犯罪の中に位置づけています。その他、風俗犯罪の中にわいせつが含まれますが、昨年の認知件数は8443件で、うち4900件が強制わいせつでした。
性犯罪の被害者は、まず身体的な被害と精神的な被害を受けます。たとえば、不意に襲われた際、あるいはもみ合った際に損傷を負うことがあります。その直後に皮膚科、外科、整形外科などを受診することがあります。また、精神的ショックを受けて直後は受診できなかったが、しばらく悩んだあとに精神科や心療内科を受診することがあります。
最近では、レイプドラッグといった薬物を用いた性犯罪があります。すなわち、飲食を共にしている間にアルコールに睡眠薬を混入されて、意識がもうろうとした状態で性被害にあうことです。この場合、体内の薬物等を検出する必要がありますので、内科等での問診の後に血液や尿の採取が必要になります。したがって、性交以外の性犯罪でも、多くの診療科に被害者が訪れることがあります。
一方で、性交等の被害にあった女性は、産婦人科で医療を受けますが、損傷の確認の他、体液を介した感染症や性感染症の検査、緊急避妊への対応が必要になります。被害者の同意を得た上で警察に通報しますが、その際に証拠資料として、加害者の体液などの証拠資料採取も行われます。もちろん、被害者は大きな精神的被害も受けていますので、継続した精神・心理的ケアも必要になります。なお、警察へ通報した場合には、診察や検査費用などは公費で負担されることになっています。
先生方におかれましては、何らかの性犯罪被害者が受診されることがあるかと思いますが、多くの場合、後日診断書を求められるようです。患者さんご本人の訴えと客観的所見を診療録に記載して頂きたいと思います。