大動脈疾患の治療を専門に行う医療施設をつくりたくて、現在の川崎幸病院に移ったのが2003年。それから17年間でおよそ7000例の大動脈手術を行ってきた。赴任当時、まだ大動脈瘤手術の成績もそれほど良好とは言えず、大動脈瘤の手術自体がハイリスクの手術であった。そのため「早期治療」という考えはなく、できるだけ待って(拡大して)いよいよとなったら仕方なく手術、というのが当時は当たり前であった。そうなれば当然破裂や切迫破裂の症例は多くなり、さらに成績は悪くなるという悪循環である。今でもそうであるが、大動脈瘤の破裂や急性大動脈解離は忌み嫌われる手術の代表である。
その日も近隣病院から引き受けた急性大動脈解離の手術を明け方から行い、昼過ぎにようやく終了し昼食をとっていた。そこに、やはり近隣の総合病院の心臓外科部長から直接電話があった。「先生、大動脈瘤破裂の患者がいるんですが、受けられますか」。もちろん手術室は空いているので「受けられます」と答えたが、どうも先方の歯切れが悪い。「ちょっと患者に問題があるんですが……」という。別にハイリスクはいつものことであり、破裂例は手術をしなければ結局のところ死亡するのだから、リスクが高くても全例手術する方針である。しかし、紹介医は「手術は別として術後に耐えられるかわかりません」という。患者は20歳女性、10cmの巨大下行大動脈瘤破裂であり、ショック状態ではあるが挿管はされていなかった。紹介医は事情を説明してくれた。
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