SARS-CoV-2ウイルスはACE2を介して感染するため、ACE2を代償的に増加させる可能性のあるレニン・アンジオテンシン系阻害薬(RAS-i)はCOVID-19発症を増やす、あるいは症状を増悪させる可能性が指摘されていた。しかしその後の観察研究からは逆に、RAS-iによるCOVID-19重症化抑制なども報告され、COVID-19に対するRAS-iの影響は明らかでなかった。そのため、RAS-iを服用中のCOVID-19例を、RAS-i「継続」群と「中止」群にランダム化して転帰を比較するBRACE-CORONA試験が実施され、その結果が本学会でデューク大学(米国)のRenato D. Lopes氏により報告された。
BRACE-CORONA試験の対象は、ACE阻害薬かARBを服用中で、COVID-19と確定診断された659例である。重症COVID-19例、非代償性心不全による入院既往(直近1年間)例、3剤以上の降圧薬服用例、エントレスト服用例、COVID-19診断時血行動態不安定例は除外されている。
平均年齢は55.7歳、BMI平均値は31.0kg/m2。全例高血圧を合併しており、糖尿病も31.9%で認められた。RAS-iの内訳は、ACE阻害薬が16.7%、ARBが83.3%だった。試験導入前RAS-i服用期間平均値はおよそ1.5年間だったという。
COVID-19の入院直後重症度は、軽症が57.1%、残りの42.9%はすべて中等症だった。また「SaO2<94%」だった例の割合は27.2%だった。
これら659例はRAS-i「中止」群(334例)と「継続」群(325例)にランダム化され、30日間観察された。
その結果、1次評価項目である「退院後生存日数」は「中止」群:21.9日、「継続」群:22.9日となり、有意差は認められなかった。退院後生存率も同様で、「中止」群は91.8%、「継続」群も95.0%で有意差はなかった。さらに試験開始から30日の死亡率を比較しても、「中止」群:2.7%、「継続」群:2.8%だった。
RAS-iを中止しても臨床的に何も利益がなかったためLopes氏は、中等症以下のCOVID-19例にRAS-iの適応がある場合、中止すべきではないと結論した。
この結果に対し、指定討論者である聖ルカ病院(イタリア)のGianfranco Parati氏は①対象年齢が若い、②(欧米にしては)死亡率が低すぎる点を指摘し、このデータを一般に当てはめられるか疑問を呈した。
これに対しLopes氏は、「対象の4割弱が65歳以上」、「65歳以上と以下に分けて比較したが、年齢による有意な交互作用はなかった」と答え、また低死亡率については(ショックを避けるため必然的に降圧薬を中止せざるを得ない)重症例が除外されているためだと説明した。またACE阻害薬、ARBを分けて解析しても、有意な交互作用は観察されなかったという。
BRACE-CORONA試験は3月21日にプロトコール立案が始まり、4月9日に患者登録を開始。7月26日に追跡が終了し、データベースのロックは8月17日。そこから1カ月を待たずに報告にこぎつけた。この迅速な日程には、指定討論者、座長とも、最大の賛辞を惜しまなかった。
本試験は研究者発案で行われ、非営利団体であるD'Or Institute for Research and Educationから資金提供を受け実施された。