終生のテーマであった宗教とは何か、人生とは何かを問いかける遠藤周作(1923〜96年)の代表作。第35回毎日芸術賞受賞。作者の没後に発見された『「深い河」創作日記』(講談社、1997年刊)を併せて読むと、作者のこの作品にかける精神がよく理解できる。
遠藤周作著(講談社、1993年刊)
私は、内視鏡を駆使して消化管の小さいがんを発見し、内視鏡治療することに無上の喜びを覚える。医者は臨床医であれ研究者であれ、定年を迎えると第一線から退かざるをえなくなる。私も長年、市中病院の消化器科部長として頑張ってきたが、中間管理職になると若い医師の指導、病院の経営業務に追われ、好きな内視鏡ができなくなってしまった。内視鏡医としてストレスがたまる一方であった。
このような折、遠藤周作の小説に出合った。遠藤は敬虔なクリスチャンであり、作品の背景には深い宗教観が窺える。特に遠藤が晩年に命を削りながら執筆した『深い河』は、名作である。仏跡巡りツアーでインドに行った日本人グループが、事件のためインダス河畔のホテルで停滞を余儀なくされ、人間の終末時の凄まじい姿を眼にして、人生とは何かを振り返る機会が与えられるという粗筋である。
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