新型コロナウイルス感染症の拡大による時限的・特例的措置として、オンライン診療・電話診療の初診が容認されてから約5カ月が経過した。この間、医療機関は患者の受診控えによる収益減が続き、いかに影響を最小限に食い止めるかが課題になっている。連載第23回は、オンライン診療の“初診解禁”を受け、迅速にオンライン診療システムを導入、治療継続率の向上や新患獲得に効果があったというクリニックの事例を紹介する。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大は、国民の日常生活を大きく変容させ、社会のデジタル化が急速に進んでいる。デジタル化の波は医療分野にも及び、4月には電話や情報通信機器などを用いた電話診療・オンライン診療の初診が、感染収束までの時限的・特例的措置として容認された。これに伴い、厚生労働省は都道府県ごとにオンライン診療・電話診療を実施する医療機関の一覧を作成し、同省ホームページ等を通じて国民・患者に周知。“オンライン診療”は多くの国民から認知されつつある。
オンライン診療の今後の取り扱いについては、8月6日に開かれた厚労省の「有識者会議」で、現状の時限的・特例的な対応を11月まで継続することが決まった。withコロナの時代では、感染リスク回避の観点から、受診する医療機関を患者が選択する際、オンライン診療の導入施設であるかどうかが基準の1つになる可能性がある。
オンライン診療の時限的・特例的措置を受け、4月末からオンライン診療システムを導入し、初診患者に対し積極的に活用しているのが、神奈川県相模原市にある「いつもジェネラルクリニック」だ。
同院は、韓国の医大を卒業後、米国留学を経て、日本で医師免許を取得した院長の金児民さんが2018年5月に開業。救命医として数多くの患者に接する中で「もっと早く治療を開始できていたら」と一次医療の重要性を実感するケースが多かったことから、「患者様を待たせずに、患者様の都合に合わせて診療を行う」という診療方針を掲げている。土日祝日も外来を開け、月・水は20時50分まで受付を行うなど、患者ファーストの姿勢を徹底した地域のかかりつけクリニックを目指している。
「日本は世界トップクラスの医療先進国ですが、皆忙しく、必要な医療を受けていない人が一定数いることに問題意識を持っていました。その理由は、一次医療を担うクリニックが十分に機能していないことにあるのではないかと感じ、患者様が気軽に通える『土日や休日も受診できて、昼休みもない』をコンセプトとしたクリニックを開業することにしました。開業してすぐにたくさんの患者様が受診してくれるようになり、現代人のライフスタイルに合ったクリニックの必要性を改めて感じました」(金さん)
同院が導入しているオンライン診療システムは、カラダメディカの「CARADA オンライン診療」(https://lp.telemedicine.carada.jp/)。
CARADAオンライン診療は、医療機関で利用しているパソコンでの運用が可能なオンライン診療のクラウドシステムで、薬局にもオンライン服薬指導のシステムとして提供している。操作性に優れたシンプルな画面で、アプリのダウンロードも不要なため、すべての機能がブラウザだけで利用できる使い手にやさしいシステムだ。「医療機関や薬局に寄り添ったシステム」を目指すエムティーアイのグループ企業が提供している。金さんはCARADAオンライン診療を導入した理由についてこう語る。
「COVID-19の影響で患者様の受診控えが進むことが予想されたので、必要な一次診療を提供するために導入を決めました。CARADAオンライン診療を選んだのは、参加した説明会で、医療の未来に対するビジョンを聞き、企業理念に強く共鳴したからです。いろいろなICTを駆使して、利便性の高い次世代のスマートクリニックを目指すという方向性が私たちと同じだと感じました」
CARADAオンライン診療の最大の特徴は、導入後の充実したアフターフォロー体制。全国の拠点に在籍する担当者が積極的にアフターフォローを行うため、忙しい医療機関でも安心してシステムを使うことができる。導入スピードも早く、最短7営業日後には利用できるという対応の早さも特徴の1つだ。
CARADAオンライン診療では、患者がパソコンやスマートフォンなどで医師による診療、薬剤師による服薬指導を受けることができる。決済方法は登録クレジットカードによる自動決済で、処方薬がある場合は処方薬および処方箋が自宅へ配送される。予約から処方薬の受け取りまで診療の一連の流れをオンラインで完結できる機能がある。
金さんも導入直後は少なからず運用に不安があったという。しかしWebサイトなどを通じ積極的に周知を図ったこともあり、多い日は10人程度の患者が利用するなど新患の獲得につながり、同院の診療スタイルの1つとして定着しつつある。治療継続率が向上する効果もあり、一次医療を担うクリニックがオンライン診療を活用するメリットを実感しているという。
「私も導入前にオンライン診療のデメリットをいろいろな先生から耳にしていたので、不安はありました。私が医師として大切にしているのは“雰囲気”で、この部分がオンラインでは難しいのではないかと感じていました。しかし数回経験していくうちに、少し大きなアクションをしたり、いつもよりゆっくり話をしたりすれば、患者様に安心感を与え、何でも話してもらいやすい状況を整えることができると感じました。今では画面越しでも、目を見ながら自然に雰囲気を出せるようになりました。当院はもともと検査をあまりせずに、患者様の主訴と経過を重視して診断するスタイルだったこともありスムーズに運用できました。オンライン診療でよく言われる『医療の質が落ちる』といったデメリットは、一般内科においてはほとんど心配する必要はないと感じています」(金さん)