私が大学病院で病棟主治医を務めたWさんとのエピソード。
間質性肺炎に対し薬剤治療を行うも反応性が非常に乏しく、慢性にそして確実に呼吸不全が進行していた。とはいえ、急性の経過をたどっている訳ではないので、いつまでも入院継続というわけにはいかない。在宅酸素療法を導入し自宅退院の方針となったが、非常に強い呼吸困難感と不安感から、毎日ベッドサイドに行くたびに泣かれてしまう状態だった。時間が許せば1時間以上お話を聞くという日々を送っていたが、残念ながらその時の私にはWさんの声を傾聴することしかできなかったのだ。当然、私自身も無力感に苛まれていた。
そのような状況の中、科内の定期配置転換のため私は別の病棟に異動し、Wさんの主治医を外れることになる。しかし、その後もできるだけWさんの病室に伺うようにはしていた。そんなある日、私の後任の主治医が予後を含めたシビアな病状説明を行った際に、Wさんご本人とご家族から生体肺移植を希望したい、という申し出があったというのだ。それからの事態が推移するスピードは早く、生体肺移植が実施可能な遠方の大学病院の呼吸器外科に連絡したところ、翌週には肺移植担当の先生が私の勤務する大学病院までお越しになり、さらにその翌週には転院し、翌月に無事肺移植までこぎつけることができた。
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