厚生労働省の「医療計画の見直し等に関する検討会」は10月1日開かれ、新興・再興感染症の流行に対応可能な医療提供体制の再構築に向けた、医療計画や地域医療構想での対応を今後、同検討会や地域医療構想ワーキンググループ(WG)で議論していく方針を固めた。医療計画では5疾病・5事業に新興・再興感染症対策を追加することの是非が、地域医療構想では具体的対応方針の再検証作業への影響などが、論点になるとみられる。3月中旬以降中断していた外来機能の分化・連携に関する議論も近く再開する。
新型コロナウイルスの感染拡大によって、地域医療の現場では局所的な病床や医療従事者、人工呼吸器などの医療用物資の不足といった課題が浮き彫りになり、新興・再興感染症に備えた医療提供体制の構築が急務となっている。一方で、総人口の減少と人口の高齢化は新興・再興感染症の発生に関係なく進行することから、地域医療構想の実現に向けた医療資源の効率的な配分や病床機能の分化・連携には、これまでと変わらず取り組む必要がある。
対応策について厚労省は、これらを両立できる柔軟な医療提供体制の構築が不可欠だと指摘。今後の論点として、①新興・再興感染症に対応する医療提供体制の医療計画での位置付け、②平時の入院医療体制を想定した「地域医療構想」に新興・再興感染症対応の内容をどのように反映させるか、③外来機能の分化と連携―の3項目を検討会に提案し、大筋で了承された。
①は、感染症法に基づいて都道府県が策定する基本指針や予防計画とも深い関わりがある内容のため、健康局の関係審議会が新興・再興感染症対応の課題を整理するのを待って、具体的な検討に着手。②は、▶感染拡大時の受入体制確保、▶具体的対応方針の再検証作業への影響、▶今後の人口構造の変化を踏まえ、どのような工程で議論・取り組みを進めていくか―などを検討する。①、③は医療計画の見直し等に関する検討会、②は地域医療構想WGが議論の舞台となる。
この日の議論で、医療関係者は新興・再興感染症対策を医療計画に組み込むことに賛成したが、保険者は慎重姿勢をみせた。織田正道構成員(全日本病院協会副会長)は、「新型コロナ患者を受入れない病院は、受入れ病院の救急を引き受ける。こうしたことを実現するには、医療計画の5疾病・5事業に感染症対策を加える必要がある」と主張。これに対して、幸野庄司構成員(健康保険組合連合会理事)は、「予防計画で感染症発生時の病床確保についてしっかり定めれば、医療計画、地域医療構想とは切り離して考えることが可能ではないか」と、医療計画や地域医療構想への反映に否定的見解を示した。
不測の事態に備えた余裕のある病床整備が必要だとして、現在の地域医療構想の進め方に疑問を投げかける声も上がった。岡留健一郎構成員(日本病院会副会長)は病床や従事者削減に舵を切ったイタリアで医療崩壊が起きたことを例に挙げ、「病床を増やす、減らすに終始すると同じ議論の繰り返しになる。災害とも言える感染症には大胆な視点の転換が必要だ」と提言。今村知明構成員(奈良県立医科大学教授)も、日本で医療崩壊が起きなかったのは急性期医療を担う大病院に余力があったからだと分析し、感染症発生当初から安定期まで患者を受け入れられるような対応を、医療計画に書き込んでおく必要があると述べた。