No.5038 (2020年11月14日発行) P.58
具 芳明 (国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンター情報・教育支援室長)
登録日: 2020-11-09
最終更新日: 2020-11-09
新型コロナウイルスへの対応が引き続き求められているが、決して薬剤耐性(AMR)の問題が消えたわけではない。毎年11月は薬剤耐性対策推進月間であり、あらためてAMR対策を意識する機会にしたいものである。
11月が推進月間に指定されているのは、AMR対策に長く取り組んできた欧州で毎年11月18日を欧州抗菌薬啓発デーとして集中的な啓発活動が行われてきたこと、そして世界保健機関(WHO)が11月18日を含む1週間を世界抗菌薬啓発週間としていることが背景にある。毎年11月は中旬を中心に国内のみならず世界各国で啓発活動が行われたり、重要なデータが発表されたりしている。
今年は、これまでイベントや優良事例表彰などを行ってきた内閣官房のキャンペーンが軒並み中止となったが、医療分野の教育啓発を担当している当センターではウェブサイトを中心としたキャンペーンを展開している(http://amr.ncgm.go.jp/information/campaign2020.html)。昨年に続きTVアニメ「はたらく細胞」のキャラクターを起用して作成した資材の配布(ダウンロードは誰でも可能)、一般向け動画の公開、恒例の「薬剤耐性あるある川柳」募集などを行っている。これらは主に一般市民向けのキャンペーンとなっている。各種アンケート調査では一般市民レベルで抗菌薬やAMRに関する認識が低いことが示されており、AMR対策を推進するためにはその底上げが必要と考えてのことである。抗菌薬は医師しか処方できないとはいえ、市民レベルで認識が広がれば本来必要のない抗菌薬処方を求めることが減り、飲み残しを保管して自己判断で内服してしまう機会が減ると期待される。これらはいずれもAMR対策につながる。また、AMR対策の重要性が広く認識されることで、新薬開発や既存抗菌薬の安定供給といった課題への対応も進むことが期待される。
もちろん医療機関におけるAMR対策も重要である。当センターでは、キャンペーンに合わせた一般市民向けの他にも医療機関で使えるポスターや資料を用意している(http://amr.ncgm.go.jp/materials/、http://amr.ncgm.go.jp/medics/2-8-1.html)。感染症診療や感染対策の基本を見直すことはコロナ対策にもつながる。推進月間をAMR対策に取り組むきっかけにしてほしい。
具 芳明(国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンター情報・教育支援室長)[AMR対策]