基本的に政治の話は書かないことにしているのだが、今回だけはお許しいただきたい。大阪市廃止・特別区設置住民投票、いわゆる「大阪都構想」についてである。
投票の少し前、東京で新聞を見て驚いた。日経と読売の朝刊をくまなく眺めたのだが、大阪では連日大きな記事になっている「都構想」についての記事が全く載っていない。
大阪人の悲劇は、そういったことすらわかっていないことにあるのではないか。「大阪都構想」を訴える政治家たちは、かつてのような栄えた大阪を取り戻し、東京のようにしたい。そのためには大阪市の廃止と分割が必要であると訴える。
普通に考えたら、そんなマジックは不可能だ。にもかかわらず、「都構想」による節減効果が1兆円にもなるという嘉悦大学の高橋洋一による試算が公式に発表されたりする。信じろという方が無理だろう。算盤勘定が高いといわれる大阪人なら、そんなアホなと一蹴せねばならないところだ。
なのに、2カ月半ほど前までは、どの世論調査でも賛成が10%ほど上回っていた。暗澹たる気持ちではあったが、正直なところ、大阪市廃止やむなしかと思っていた。しかし、告示前あたりから急速に反対派が盛り返してきた。半ば諦めていたとはいえ、そうなってくると、俄然気になりだした。
結果はご存じの通り、反対が賛成を上回った。いくつもの理由があるだろうけれども、最大のものは「都構想」というものを詳しく知ることにより、賛成から反対に鞍替えした人が多かったことに尽きそうだ。
近畿地区以外の人はご存じないかもしれないが、在阪民放局はどう見ても「都構想」支持だった。そもそも、都になるかどうかではなく、大阪市廃止を問う投票であるにもかかわらず、最後まで「都構想」なる名称で報道すること自体がおかしくはないか。
「いいこともあった。なによりも、市民の多くが大阪市の将来を真剣に考えたことだ。結果が思い通りであったかどうかは別として、そういう姿勢こそが、これからの大阪市をまちがいなくいい方向に導いてくれるはずだと期待している」。
5年前の投票の時、「其の49 大阪のいちばん長い日」のラストに書いた文章だ。再度の「都構想」投票のために、残念ながらこの期待は5年もの間、無為に先延べされてしまった。今度こそ、と強く願っている。
なかののつぶやき
「『都構想』によって大阪は分断された、とよく言われます。しかし、わたしの周りは最初からほぼ全員が反対です。だから、『都構想』によって分断されたのではなくて、すでに存在していた分断があらわになった、というのが正しいような気がしています。どうしてそうなってきたのか、また、どうすればそういった状況を改善することができるのか。それこそが大阪市を率いる人にとって最大の課題ではないかと考えています」