膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasm:IPMN)は,囊胞性膵腫瘍の中でも最も多い。一般人口において約1.8%にみられ,年齢とともに増加する。ほとんどは腺腫であるが,一部は徐々に腫瘍の異型度を増し,IPMN由来浸潤癌になる。また,IPMNは通常型膵癌のリスクファクターとされており,IPMNの経過観察はIPMN自体のがん化のみならず,通常型膵癌の早期発見のためにも重要と認識されている。
IPMNは膵管上皮から発生し,豊富な粘液を分泌するため分枝膵管や主膵管が拡張する。またIPMN自体は「イクラ様」と言われる乳頭状の発育形態を示す。診断のポイントは,① IPMNの分類を正確に行うこと,②手術適応の判断,③併存する通常型膵癌を見落とさないこと,の3つにある。
IPMNは肉眼型により主膵管型(main duct IPMN:MD-IPMN),分枝型(branch duct IPMN:BD-IPMN),混合型に分類される。MD-IPMNは,他の原因がなく5mmを超える部分的あるいはびまん性の主膵管拡張がみられるもの,BD-IPMNは主膵管径5mm以下で,主膵管と交通を有する5mmを超える拡張分枝がみられるもの,混合型は主膵管型と分枝型の双方の基準に合致する病変,すなわち,主膵管径も分枝膵管径も5mmを超えるもの,とされる。
MD-IPMNにおける浸潤癌またはhigh grade dysplasiaの頻度は61.6%とされ,悪性化の頻度が高い。BD-IPMNは,IPMNの中で最も頻度が高い。BD-IPMN中,外科切除例における悪性の頻度は平均25.5%(6~46%),また,悪性化の頻度は年率2~3%と決して高くない。「IPMN国際診療ガイドライン2017」1)でも切除適応の基準がさらに厳格となり,経過観察が選択されることが多くなっている。しかし,通常型膵癌における併存癌のほとんどはBD-IPMNであり,通常型膵癌のリスクファクターとして重要である。混合型は,BD-IPMNの進行例としてとらえられる。このため,時間軸でみるとBD-IPMNの長期経過例であることが多いが,短期間に増大している場合もあるため,初回診察時に混合型IPMNをみた場合には,画像での安定性を確認するまでは3~6カ月ごとの経過観察が望ましいと考える。
主膵管径が10mmを超えたら手術適応とされる。
「IPMN国際診療ガイドライン2017」1)により,画像所見から悪性度の指標として,high-risk stigmata(HRS)およびworrisome features(WF)が設けられた。画像診断によってHRSの所見を認めた場合は手術を考慮し,WFの所見を認めた場合は超音波内視鏡(endoscopic ultrasonography:EUS)検査を行い,その結果に応じて手術を考慮するという方針となった。
WFは,画像所見で囊胞径≧3cm,造影される壁在結節<5mm,造影される肥厚した囊胞壁,主膵管径5~9mm,上流膵の萎縮を伴う主膵管狭窄,リンパ節腫大,CA19-9高値,および2年間に5mm以上の囊胞径増大を含む。これに急性膵炎の症状も入る。これらの所見をみた場合は,EUSによる精査を行い,特に壁在結節の計測,浸潤所見の有無を確認する。
HRSは,膵頭部病変例での黄疸,IPMN内の造影される5mm以上の壁在結節,10mm以上の主膵管拡張である。
IPMNに関連した膵癌にはIPMN自体ががん化するIPMN由来癌のほか,IPMNとは違う場所に通常型膵癌が発生するIPMN併存膵癌,また近年発生経路が発見されたものとしてIPMNに隣接して併存膵癌が発生するIPMN隣接併存膵癌の3つが存在する。特にIPMN併存膵癌は,IPMNを有する膵臓自体が併存膵癌のリスクファクターとなりうることから,通常型膵癌の早期発見のためにも重要と認識されるようになっている。
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