頸椎後縦靱帯骨化症(頸椎OPLL)は,椎体,椎間板の背側で脊椎椎体を連結する後縦靱帯が骨化・肥厚することにより脊椎管の前方から狭窄をきたし,脊髄または神経根の圧迫障害が生じる疾患である。日本人を対象とした単純X線の調査では頸椎OPLLの発生頻度は約3%である。CTを使用した検査では約6%と報告されているが,実際に発症するのはごく一部である。40歳以降の中高年の男性に多く,厚生労働省の指定難病には,現在,約3万5000人が登録されている。
OPLL患者では,びまん性特発性骨増殖症(DISH)を高頻度に合併することが知られており,また,棘上靱帯や黄色靱帯の骨化の合併も多いことから,脊柱靱帯骨化の一部分症としてとらえる考えもある。
脊髄症を呈する症例では,手指のしびれ,知覚障害,巧緻運動障害が出現し,進行すれば歩行障害,膀胱直腸障害を引き起こす。神経根症を呈する症例では,頸部痛,肩甲部痛,上肢痛が出現し,徐々に障害神経根領域のしびれ,筋力低下,知覚障害が生じる。
局所所見:神経根症では頸部の伸展などで頸部,肩甲部,上肢への放散痛などを伴う。脊髄症では,頸部の伸展で体幹,下肢への放散痛を認める場合もある。また,特にDISHを伴う場合などでは,頸椎の可動域が低下する。
神経学的所見:神経根症を呈する症例では,Jacksonテスト,Spurlingテストの陽性所見,神経根障害に伴う深部腱反射の減弱,筋力低下,分節性知覚障害などがみられる。脊髄症を呈する症例では障害髄節の深部腱反射の減弱,筋力低下,知覚障害,索路徴候としてHoffmann反射,Wartenberg反射陽性,下肢腱反射亢進,知覚障害,膀胱直腸障害などがみられる。
画像所見:頸椎単純X線側面像において骨化像を確認できるが,椎間関節に重なって見えにくいことや,頸胸椎移行部の骨化は肩と重なって確認しにくいこともある。CT検査では骨性の病変をより明瞭に確認できる。矢状断の再構築画像にて骨化の連続性を,水平断では脊柱管,椎間孔における骨化の局在を評価できる。また,胸腰椎での後縦靱帯骨化や前縦靱帯,黄色靱帯など,他の脊柱靱帯の骨化も確認できる。脊髄造影後のCTでは脊髄の圧迫病変をさらに詳細に評価可能である。MRI検査は神経圧迫病変の評価に優れる。矢状断,水平断で脊髄神経および神経根の圧迫を確認でき,T2強調画像における髄内輝度変化は脊髄が不可逆的に障害されている可能性があることを示唆する。
軽症例では動的因子の軽減を目的とした治療や,対症療法が選択されることが多い。高度の運動麻痺を伴う症例や,進行性の脊髄症を呈する症例では手術が必要となる。
画像上,後縦靱帯骨化を認めても無症状の場合も多い。診断においては,画像上の神経圧迫所見と神経学的所見の整合性が重要となる。
本症は黄色靱帯骨化症とともに厚生労働省の指定する難病となっており,画像上認められる骨化が著明な神経障害の原因となっている場合に認定される。
軽症例では局所の安静などで保存的に経過をみてよいが,進行性の神経障害がみられる場合には予後不良であり,手術の検討が必要となる。適切なタイミングで専門医に紹介することが重要である。また,頸部の過度な伸展屈曲により症状が増悪することがあり,注意が必要である。
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