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私的ビンテージ衣服[なかのとおるのええ加減でいきまっせ!(332)]

No.5042 (2020年12月12日発行) P.68

仲野 徹 (大阪大学病理学教授)

登録日: 2020-12-09

最終更新日: 2020-12-13

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この秋、初めてコートを着た日のこと。同居している母親が何を思ったのか「新しくバーバリーのコートを買ったのか」という。「ちゃうがな、これはお母ちゃんが最初のヨーロッパ旅行へ行った時、ロンドンからわざわざ電話して背丈を聞いて買ってきてくれたやつや」と孝行息子(=私です)。

妻が1人目の娘を産んだ時の産休中のことだから、35~6年前である。信じられないかもしれないが、まだそのコートを愛用している。カーキ色のいちばんオーソドックスなスタイルのものだ。

さして大事に着ている訳ではないが、少しも傷んでいない。まぁ、コートというのは寒い時に比較的短時間しか着ないし、長持ちしても当然かという気がしないでもない。

ちょっと飽きてきたので、他の英国メーカーの似たようなコートを買ったことがある。2着を同じように着回していたのだが、そちらの綿100%のコートは数年でダメになった。バーバリーのはポリエステルと綿の合繊なので強いのかもしれない。

単に古いだけ、という言い方ができなくもないが、私的にはビンテージ衣料である。このコートがいちばん古いかというと、さらに古い服もある。初めて誂えたスーツだ。

28歳の時、初めての海外出張をした。行き先はセントルイス。それまでにもブレザーは持っていたのだが、アメリカ人に舐められたらあかんと思って新調した。

グレーの何の変哲もないスーツ。段取りがわからなかったので、イージーオーダーは岳父についていってもらった。2人で出かけることなどめったになかったので、今となってはいい想い出になっている。

そのスーツ、昔はよく着ていたが、今は教授室のロッカーにある。急にちゃんとした格好をしなくてはならない時のための「置き服」だ。せいぜい年に3~4回しか出番がないから、ほとんど痛みが進むことはない。

もう1枚、ドイツ留学中に着ていたので、30年以上前であることは間違いないウールのシャツがある。おそらく渡独に備えて買ったような気がするのだが、記憶は定かでない。汚れが目立たない茶色のシャツで、暖かいから厳冬期に重宝している。

30年越しの服、ここまでくると家宝ものである。着ないで保存というのはいまいちなので、大事に使いながら死ぬまでもたせようと密かに目論んでいる。

なかののつぶやき
「3着の私的ビンテージ衣料、とりたてて高価なものでもないし、うんと思い入れがあるわけでもない。でも、30年以上も手元にあると、否が応でも愛着が湧いてしまいます。あと、何年も使ってないカバンがいくつか捨てられなくてホコリをかぶっています。断捨離すべきなのはわかってるんですけど、年数がたてばたつほど捨てにくくなっています」

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