No.5043 (2020年12月19日発行) P.62
仲野 徹 (大阪大学病理学教授)
登録日: 2020-12-16
最終更新日: 2020-12-15
今年の1月に読売新聞の読書委員を拝命した。いろいろな本の書評をおよそ2週間に1回の割合で書いている。科学読み物の書評が期待されているような気がするが、それはこれまでに書いた20数冊のうち3分の1くらい。あとはいろいろな分野のノンフィクションがメインで、難しいとわかっていながら、小説の書評にも3回挑戦した。
ちょっと口はばったいけれど、昔の友人から「偉くなったなぁ」と言われることがある。さすがに自分でそう思うほどおめでたくはない。偉くないから当然なのだが、教授になるとか、本を出すとか、さまざまなことはステップワイズに進んできたので、あまりそういう自覚がないということもある。
しかし、読書委員の時だけは違った。就任の打診があったとき、不遜にも、俺はなんと偉くなったんだと感心してしもうた。Quantum Leap(量子飛躍)みたいな大躍進。
高校時代から新聞の読書欄を愛読している。購読しているのは読売新聞じゃなくて朝日新聞だけれど、ずっと長い間、新聞の読書欄を担当するような人は日本の知性と言ってもいいような人だと思い続けてきた。
HONZ(honz.jp)でノンフィクションのレビューを書き始めて10年近くになるし、雑誌などに書評を発表させてもらう機会も結構ある。だが、新聞の書評委員となると別格だ。夢、ということすらおこがましい。いつかなれたらさぞかし嬉しいだろうとは思っていたが、まさかそんな日がくるとは。
20名の委員のうち半数は学術関係。でもその分野はさまざまだし、他に宮部みゆきさんをはじめ作家さん、女優の南沢奈央さんなど、お目にかかる機会のなさそうな人ばかりだ。これまでいかに狭い世の中で生きてきたのだろうかとため息がでる。
2週間に1回、読売新聞本社で委員会が開かれる。200~300冊の本が並べられ、委員が好きなものを数冊選ぶ。その本のどこが面白そうとかいうのを簡単に説明して、みんなでわいわい。それを持ち帰って検討、1~2冊の書評を書くという段取りである。
本を巡っての意見交換はちょっとしたサロン気分。自分では決して読むことがない分野の本、難解な本、分厚い本などが取り上げられたりする時には感動すら覚える。
それ以上に楽しいのは委員会終了後の飲み会なのだが、このところ新型コロナのせいで思うに任せないのが残念でたまらない。
なかののつぶやき
「今回は『其の333』と、ゾロ目回であります。定年を迎える再来年の3月には、このエッセイも卒業と思っていますので、3回目にして最後のゾロ目回になるはずです。まぁ、ゾロ目やからといってどうっちゅうことはないんですけれど、縁起がええ感じがするので、とっても嬉しかったことについて書きました。読売新聞の読者の方、ぜひご贔屓のほど、よろしくお願いいたしまする」