冬のある日、80歳代の男性が救命センターに入院してきた。慢性閉塞性肺疾患(COPD) のため他院で在宅酸素療法中であったが、発熱し呼吸困難の訴えがあり救急搬送された。喀痰もいつもより増加しており軽度の肺炎を起こしているようであった。アルツハイマー型認知症を患っており、妻が主に介護を行っていた。
患者は長らく患ったCOPDのためやせ細っており、簡単な会話でしかコミュニケーションをとることができなかった。診察しているうちに、病衣の袖から見えた両肘の色素沈着にふと気がついた。見舞いに来られた妻に私は尋ねた。「お父さん、家ではどのように過ごしていましたか?」「家では苦しいせいかあまり動こうとしませんね、テレビしか見ていません」「もしかして、両肘をついた姿勢でいつもテレビを見ていませんでしたか?」「先生、どうしてわかったのですか?肘をついて行儀が悪いといつも言っていたんです!」。心配のため曇っていた妻の顔が少し綻んだ。
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