こんな小さなクリニックにも新型コロナはやってきた。4月初旬、近隣の市に住むタイ人男性から、発熱しているが診てほしい、とタイ語で電話があった。小一時間もしないうちにそれらしき人物がクリニックの外に現れ、指示通り、受付に電話をかけてきた。マスクとゴム手袋をつけた受付事務員が外に出て、何とか問診票に記載、それを読んだ。患者がいなくなったクリニックの中に入ってもらい、こちらも完全防備の上、診察室で拝見したが、本人はいたって元気でいわゆる「風邪」でいいだろうと思い、内服薬を処方した。
翌日、この患者から再び、電話があった。呼吸がやや苦しいし、味がよくわからないとのこと。すぐに来てもらい、再び、クリニックのドアの外から電話をかけてもらった。受付まで出て行ったが、明らかに前日とは顔の表情が違う。新型コロナウイルスのPCR検査が必要だろうと判断。当時は帰国者・接触者相談センターを通して帰国者・接触者外来にて担当医が必要と判断した場合のみしか、PCR検査を受けることができないシステムであったので、同センターに電話をかけた。すると、まずは先生が診てくださいと言う。今、ドアの外にいて話をしたが、具合が悪いと告げても、「診察をしてください」の一点張り。そのうちに「診療拒否ですか?」などと言い出す始末。「味覚がおかしいなら耳鼻科を紹介してもらえませんか?」とも言われた。そういう問題ではないと押問答をすること15分ぐらい。後で本人に直接連絡をするからとのことなので、公共交通機関には乗れないので、会社の方にわけを話して迎えに来てもらった。
翌日、帰国者・接触者相談センターから電話があり、昨日の患者は陽性だったと告げられた。
このケース、医師の自分でもどうにもならないPCR検査にたどり着くまでのもどかしさを、いやというほど味わった。その経験から郡市医師会としてPCR検査を行うことの重要さを認識、4月28日より週6日体制で医師会立のPCR検査を開始した。8月になって立て続けにクリニックで陽性者を5人発見。いずれも無症状か軽症だった。何から何まで皆が初めての経験のこの新型コロナ騒ぎ、早く収まってほしいものだ。