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もう一度行きたい町に思いを馳せる[炉辺閑話]

No.5045 (2021年01月02日発行) P.96

相澤孝夫 (日本病院会会長)

登録日: 2021-01-04

最終更新日: 2020-12-28

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75歳という節目の年が近づいているせいか、最近は長く座っていると腰が痛むことが多くなった。変形性腰椎症である。テレビで「世界ふしぎ発見」などを見ていると体が動くうちに旅行に行きたいという思いが募ってくる。

皆さんはチェコ共和国のリトミシュル市をご存じだろうか? 首都プラハから車で東に2時間以上(私の記憶なのであまりあてにならない)走ったところにある小さな町である。町の周辺は丘陵が連なり青い空と暖かな陽の光が射す穏やかでのんびりとした風情がある。

町は城を囲むように立っており、その城館が世界文化遺産に登録されているリトミシュル城である。この城館は中庭を囲むように特別な装飾が施された建物が連なっている貴族の館であり、館内には世界に数箇所しか残っていないバロック様式の劇場がある。この中庭等で毎年6月に開かれるのがスメタナ音楽祭である。スメタナはチェコ音楽の祖とされる作曲家であり、交響詩「わが祖国」、歌劇「売られた花嫁」等が代表作で、チェコ国民が最も愛する音楽家である。

スメタナがリトミシュル城にあるビール醸造所で生まれたことから、この町で音楽祭を行うことになった。城館の中庭だけでなく町の修道院教会、小さな集会場など、町の至るところで音楽が演奏されるスメタナ音楽祭は、町の風情と相まって訪れた人を感動の渦の中に巻き込む。

私はこれまでに2回リトミシュル市を訪れている。至るところで音楽が流れている音楽祭や優雅な城館には大いに感激したが、決して物質的に豊かでもなく、また近代的でもないこの町の人々の、穏やかで幸せいっぱいの素晴らしい表情に心を打たれた。

近代化により豊かになったと言われる現在の我々が抱く人生の価値とは! 真の豊かさとは! 何であろうか? コロナ禍で外出の自粛をする中、自宅の庭の草取りを行い芝生に大の字になって寝ころび、青い空と流れる雲を眺める時、もう一度リトミシュルに行き、人生の価値、生きる意味を確かめたいと思う。

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