大学病院での2年の研修を終え、3年目の市中病院での研修中のある日、腹痛、血性下痢、その後の尿量減少を主訴に2歳の女児が来院した。私は、密かに待っていた症例が来たと小躍りした。カテーテルで採取できた尿は30mL弱、赤ぶどう酒色だった。血圧は130/70mmHgと高く、血液検査では予想通り貧血、血小板減少、LDH高値、ビリルビン高値、クレアチニン高値を認めた。確認のために検査室で見せてもらった末梢血塗抹標本(写真)では、赤血球の大小不同と破砕像を認め、溶血性尿毒症症候群(HUS)と診断した。
腎不全に対し、水分・蛋白・塩分の制限を行い、フロセミドによる利尿を図り、予てから使ってみたいと思っていたメシル酸ガベキサート(FOY)を投与し、尿量、血圧、クレアチニン、血清K、中枢神経症状などに注意しながら経過を観察した。隣室のソファーに座り、採尿バッグに落ちる尿の一滴を待ちながら翌日を迎えた。そして、夜が白む頃から滴下の間隔が短くなり、色調も赤ぶどう酒色からオレンジ色に変わってきた。1日尿量は620mLになった。治療開始後12時間で利尿がついたのはFOYの効果とその時は確信し、これを症例報告にまとめた。
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