〔要旨〕2019年12月,中国武漢で発生した新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による感染症(COVID-19)に対し,2020年3月には世界保健機関(WHO)がパンデミックを宣言するに至った。世界各国でロックダウンや種々の自粛がなされ,経済の低迷やオリンピックの延期など世界的に甚大な影響を及ぼしている。2020年末の時点で世界中の感染者数は8200万人,死亡者数は180万人に達している。日本でも感染者数,死亡者数はますます増加しており,医療崩壊の危険が叫ばれる一方,院内感染や受診控えなど医療現場に様々な影響を及ぼしている。
このような状況の中において,SARS-CoV-2の不活化作用を有し,COVID-19の無症状・軽症・中等症から重症への進行を抑制し,症状を改善する可能性の大きい和温療法の活用について根拠を示して提言したい。
「和温療法」とは均等低温サウナ器の中で,心地良く全身を温める遠赤外線治療である。室内をほぼ均等の60℃に設定した和温療法器(CTW-5000,フクダ電子)内で気持ち良く15分加温し,出浴後30分安静保温をして,最後に発汗量に見合う水分を補給する。2020年4月に慢性心不全に対して新規保険収載され標準治療として承認された。
和温療法は多彩な効果,例えば,(1)全身の血管内皮から一酸化窒素(NO)を著明に発現し血管内皮機能を改善し心拍出量を増加する,(2)抗血栓作用,(3)抗酸化ストレス作用,(4)ヒートショック蛋白の発現,(5)免疫能のアップ,(6)自律神経機能の是正(副交感神経活性の亢進と交感神経活性の抑制),(7)神経体液性因子の改善,(8)心身のリラクゼーションなどの効果を発揮することがこれまで証明されている1)。
したがって,COVID-19の患者に和温療法を安全に施行することが可能であれば,無症状・軽症および中等症のCOVID-19の患者が重症へ進行することを抑制し,症状の改善に効果的であることを示唆する。そこで和温療法器内で,SARS-CoV-2の感染性はどのように変化するのか,和温療法器内でのSARS-CoV-2の不活化効果,COVID-19の患者に対する和温療法の安全性,院内感染防止に向けたSARS-CoV-2の不活化への応用について検討した。
サラヤ社サージカルマスク外層不織布を1cm×1cmの大きさに切ったものをマイクロチューブに入れ,その上に風邪コロナウイルス229E株を含む培養液を滴下した。それを和温療法器内の座面上に置いて加温処理を一定時間施行した後,培地50μLを添加して滴下培養液を回収した。そして,回収した培養液の力価をLLC-MK2細胞(サル由来の細胞)を用いたTCID50法で測定した。図1に示すように,LLC-MK2細胞に風邪コロナウイルス229E株を感染させると細胞融合が起こり,細胞変性効果(cytopathic effect:CPE)が認められる。回収ウイルスをどれくらい希釈してCPEが見られるかを確認してTCID50値を求めた。
図2は和温療法器による風邪コロナウイルス229E株の不活化の変化を処理時間で示したもので,20μLのウイルス量を滴下して和温療法器の座面温度を60℃に設定し実験を施行した結果を示している。横軸は処理時間を示す。すなわち,0は和温療法器の座面(60℃)で0分,室温(25℃)で30分,5は座面で5分,室温で25分,10は座面10分,室温20分,30は座面30分,室温0分という意味である。縦軸のウイルス力価の100%は105~106TCID50/mLのウイルス量に相当する。和温療法器の座面で15分処理すると1%のウイルスが残存し,20分では0.02%,25分では0.01%というように,ごくわずか残存したが,30分の処理では検出限界以下まで不活化された。
和温療法は60℃・15分の遠赤外線サウナ浴と出浴後30分の安静保温が基本であり,次の患者の施行までには少なくとも1時間以上の間隔を要するので,万一,和温療法器内にウイルスが持ち込まれても,感染は確実に予防できると考えられる。また,30分の安静保温中に患者の衣類など持物を和温療法器内の座面に置いておけば,ウイルスも不活化され,安全に着替えができる。実際には,患者がマスクをして和温療法器内に入れば,ウイルスの持ち込みリスクはさらに減少し,感染上の問題はクリアできる。
COVID-19は高齢者や心疾患,糖尿病・高血圧・高脂血症などの基礎疾患を有する患者に感染すると重症化しやすく死亡率が高いと言われるが,これらの患者に共通する病態は全身の血管内皮機能障害である。和温療法は全身の血管内皮機能低下を著明に改善する安全で簡便な非薬物的・非侵襲的治療法であることはすでに証明されており2)〜7),コロナ禍における和温療法の活用の臨床的意義は極めて大きいと考える。さらに,COVID-19の重症化には血栓・塞栓症の関与も考えられているのに対し,和温療法には前述の通り,抗血栓作用も示されている。
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